サイゼリヤを急成長に導いた2人の経営者

試行錯誤を経てチェーン展開を軌道に乗せた正垣氏は、株式の公開を機に同社の成長期に経営パートナーとして、外部人材をスカウトします。京都大学大学院農学研究科を修了し、味の素で開発を担当していた、堀埜一成氏がその人でした。

野菜を自社で育成する飲食と農業のタイアップにより事業の川上から川下までを一貫管理して、コストを抑えつつ良質なメニューを届けるという正垣氏の理想を実現できる人材として、正垣氏自ら引き抜いたのだといいます。堀埜氏は2000年にサイゼリヤに入社、09年には正垣氏の後を受けて二代目社長に就任し、二人三脚でサイゼリヤをさらなる成長軌道に乗せたのです。

コロナ真っ只中の時期に「ランチ外食も控えてほしい」とした時の大臣に対し、「ふざけるなよ」と発して一躍有名になった堀埜氏ですが、社長としての功績は決して小さくありません。その最大のものは、海外を含めた工場およびセントラルキッチンでの食材処理を進め、基本的に包丁やガスレンジを使わない店舗運営を実現し、キッチンスペースを半減させることで店舗内客席数を拡大したことです。

サイゼリヤ前社長の堀埜一成氏
写真=時事通信フォト
サイゼリヤ前社長の堀埜一成氏。コロナ禍のランチ自粛要請に「ふざけるなよ」と発言し話題になった

独自の「理系型」飲食チェーンモデルの確立

同時に、顧客が手書きでオーダー票に書き込む注文方法なども導入して、少人数のパート・バイト人材中心で回る低コスト店舗オペレーションを確立。さらに2003年にスタートし当初苦戦していた海外展開を、オペレーションや価格の見直しにより黒字に転じさせ、これを積極的に推し進めることで為替ヘッジの効いた収益構造を作り上げたのです。

このように初代、二代目の2人の経営者によって、サイゼリヤは他の外食チェーンとは一線を画する、独自のビジネスモデルを確立しました。海外を含めた調達・加工・流通・提供の一貫管理体制の確立、キャンペーンに依存しないメニューの絞り込みと固定化、徹底した工場&セントラルキッチン活用による店舗調理の効率化、さらには海外展開によるヘッジを効かせた戦略――。

これらから感じられるものは、低価格で安定的な品質の製品を大量生産する“飲食の製造業化”とも言えそうな、至って理系的な戦略展開なのです。サイゼリヤのビジネスモデルは理系ど真ん中出身の正垣氏と堀埜氏が築いた、コスト・品質・リスク管理を徹底したデフレに強い「理系型」飲食チェーンモデルなのです。