イスラエルとパレスチナは長年、敵対関係が続いている。戦史・紛争史研究家・山崎雅弘さんは「イスラエルのネタニヤフ政権とパレスチナ・ハマスは、対立することでそれぞれの権力基盤を強化できており、利害が一致している。現代の戦争を理解するには、この『隠された対立軸』を考えなければならない」という――。

※本稿は、山崎雅弘『新版 中東戦争前史』(朝日文庫)の一部を再編集したものです。

ひびの入った壁にイスラエル対パレスチナの旗
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戦争・紛争を抑止する「特効薬」はない

戦争や紛争は、なぜ起きるのか。なぜ、この世からなくならないのか。

戦史・紛争史研究家を名乗り、古今東西の様々な戦争や紛争を分析・解説する原稿を書く仕事を続けながら、常にそうした疑問を頭の片隅に置き続けてきた。

1945年の悲惨な敗戦以降、日本は在日米軍基地が集中する沖縄を除いて、戦争や紛争と深く関わらずに済むという恵まれた環境にあったが、子供の頃から戦争や紛争に興味を惹かれ、本や映画、プラモデル、机上でプレイするシミュレーション・ゲームなど、さまざまな形態でこのテーマに関わってきた。

そこで少しずつ学んだのは、戦争や紛争が起こる原因は多種多様であり、あらゆる戦争や紛争の発生を一律に抑止できるような「特効薬」的な解決法はなさそうだ、ということと、戦争や紛争を始めたり、戦時の意思決定を行う政治的・軍事的指導者の思考や行動様式には、いくつかの共通するパターンが見出せる場合があることだった。

「人為的要因」に着目すれば「先送り」は可能?

一見すると、この二つは矛盾しているようにも感じられるが、それぞれが戦争や紛争の「異なる側面」を表しているので、切り離して考えることができる。

前者の「原因」とは指導者個人の力が及ばないような領域、例えば軍事力の不均衡や、長年にわたり未解決の領土問題、武力行使で得られる経済的利益などを含み、後者は指導者が作り出したり意図的に煽り立てたりできる領域、例えば人種間の不和や対立、宗教上の不寛容、過去に隣国や周辺国との間で発生した古い戦争や紛争の蒸し返しなどを含んでいる。

これらの要素の混ざり具合は、個々の戦争や紛争によって異なっており、それゆえ共通の解決法は見出しにくい。しかしその反面、後者の「人為的要因」に着目して政治的・軍事的指導者の語る言葉や行動を監視し、彼らが過去に繰り返された「争いの炎に油を注ぐパターン」へと国民を向かわせることを阻止できれば、自国が関わる新たな戦争や紛争の発生を、少なくとも「先送り」にすることは可能かもしれない。