「平和」より「対立」が優先順位の上位に
彼らにとっては、相手側の「b集団」が自国を攻撃することは、自らの「強硬姿勢」を支持者にアピールする絶好のチャンスであり、政治的地位を強固にするための宣伝に利用できる「イベント(事件)」でもある。対立が続けば続くほど、自国内の「政敵」である宥和派の政治的発言力は低下し、強硬派の政治的発言力は増大する。
逆に、双方の「a集団」同士が国境を越えて連帯し、支持者を増やし、対立や衝突を引き起こすような暴力や挑発が途絶えれば、双方の「b集団」の政治的発言力は同時に低下してしまう。双方の「b集団」が平和を望んでいないとまでは言えないにせよ、交渉での譲歩を最低限に抑えて平和の到来を先送りにすることを厭わないという意味では、平和よりも対立や緊張の常態化・恒久化を優先順位の上位に置いている。
21世紀に入り、イスラエルとパレスチナの関係が悪化し続けている背景には、この図で示したような「双方のb集団の利害の一致」が存在しているようにも思える。
ネタニヤフ政権もハマスも「国内に敵なし」
第二次世界大戦中のヒトラーによるホロコーストは「パレスチナのアラブ人の入れ知恵が原因」などという、歴史的な事実経過を無視した「妄言」を堂々と公言するネタニヤフの態度や、その手法ではガザ地区の平和は実現できないことをわかっていながら、イスラエル側に対する効果の薄い無差別攻撃を繰り返すハマスの行動は、紛争の解決には全く寄与しない一方で、対立関係の常態化・恒久化という効果は生みだしている。
そして、現時点ではネタニヤフ政権もハマスも、対立関係の常態化・恒久化によって、政治的な発言力をさらに強め、穏健派の政治力を削ぐことに成功している。
このような屈折した図式は、中東問題に限らず、古今東西の戦争や紛争でしばしば見られ、人々を戦争や紛争に駆り立てる前段階としての「国民間の反目や対立」を、特定の政治勢力や政治権力者が意図的に作り出すケースも少なくない。