日本料理の名人が包丁さばきを見せなかった理由

ソヴァリンについては私自身が経験した面白いエピソードがあります。

昔、新橋に西健一郎さんが店主を務める「京味」というお料理屋がありました。このお店に通っては西さんとの談笑を楽しんでいたのですが、ある時西さんがお父さんの下で修業していた時の話を聞かせてくれました。

西さんのお父さんは一番大事な包丁さばきのタイミングになると、いつも西さんに何かしらの用事を言いつけてその姿を見せてくれなかったそうです。「何で教えてくれないのか」と不満に思った西さんは、お父さんが何を言いつけてきてもいいように、ある日すべての素材や道具を事前に用意しました。その甲斐もあり、結局お父さんは諦めて、包丁さばきの技術を教えてくれたそうです。

こうしたエピソードはどこか昔の剣豪小説に出てくる教訓にも似ています。一見不親切に見える師範の行動には実は裏の狙いがあったりする。西さんの話でいえば、技術を身につける前に、身の回りの整理や準備を習慣として身につけさせたい、というお父さんの考えがあったのでしょう。

この程度であれば私たちでも話の前後を理解することができますが、人工知能自体が目的を定めるソヴァリンにまで到達すれば、人間が理解できることのほうが少なくなる可能性があります。今後、次々にAIが人間に伏線を張ってくるかもしれません。

AIの性能は不老不死に近づきつつある

【堀江貴文】先日対談した東京大学大学院工学系研究科准教授の渡辺正峰さんが「人の意識を機械に移植する可能性」に関して興味深い話を聞かせてくれた。渡辺さんは、意識のアップロードともいえるような研究をしている。

渡辺さんの話を簡単に要約すると、右脳と左脳を分けたうえで、あらためて左右の脳を連結させる脳梁のうりょうにBMI(ブレイン・マシン・インタフェース)を入れる。そこで左右の脳が一つの意識を持つことを確認する。

その後、片方の脳を機械の脳半球に変え、BMIで左右をつなぎ、時間をかけて意識を一体化させていく。記憶についても、長くつないでおけば、もともとの脳半球から機械の脳半球に記憶が移動していくと考えることができるそうだ。

これが実現できれば、いずれ自身の脳が死亡した時にも、機械の脳は意識を持って存在している可能性があり、不老不死の初期モデルができるかもしれない。不老不死とまではいわなくても、脳梗塞で脳に障がいを負ったような人の治療法の一つとなるかもしれない。

渡辺さんは、そもそも「意識を持っているかどうか」を検証する方法を見つけるためにこのような研究をはじめたそうだ。あと10年もすれば猿で実験する目途も立つそうだが、今後が楽しみである。