データさえ取得できれば脳は不要なのか?
【堀江】ここまで語ってきたAIの進化の様子から、私はすでにシンギュラリティが訪れていると考えている。今の物理学の限界といわれる「不確定性原理」の限界まで一瞬で到達するのではないだろうか。人間には想像できないレベルの知能を獲得したAIに残る興味は、宇宙の謎を解き明かすくらいしかないのかもしれない。もしくは、まだ証明されていない問題を解決してしまうのかもしれない。
【茂木】マインドアップローディングの可能性を探っているのはエンジニアリング界隈の人たちに多く、脳科学者のほとんどは懐疑的な姿勢です。かつて、「データさえ取得できれば、脳は不要だ」と言ったMITの研究者がいました。被験者の脳を切り刻み、データからパターンをコンピュータの中で再現すれば、意識が永遠に生きると主張したわけです(もちろん倫理的な問題からその研究者は大学から縁を切られたそうですが)。
しかし、そもそも脳のシナプス結合のパターンを再現したとしても、神経と神経の間のメッセージをやりとりしている神経伝達物質は、現時点で知られているだけで、少なく見積もっても100種類あります。皆さんが知っているものではドーパミン、グルタミン酸、GABA、セロトニンなどがあるかもしれません。
ただ、これらはごく一部であり、コンピュータでどこまですべてをシミュレーションできるのかが問題になります。加えて、そもそも意識や心と呼ばれるものが何によって生み出されているのかは不明です。