※本稿は、笹井清範『店は客のためにあり 店員とともに栄え 店主とともに滅びる 倉本長治の商人学』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
縦割りの組織構造を変えていく
2017年3月16日、ファーストリテイリングは2月から稼働した有明の新社屋Uniqlo City Tokyoで「有明プロジェクト」の取り組みを発表した。柳井正代表取締役会長兼CEOは、自社の事業をこれまでの製造小売業から「情報製造小売業(=Digital Consumer Retail Company)に変える」と宣言。従業員の働き方から産業構造まで、全社的にあらゆる改革を進めていくことを明言した。
具体的には「服を作る人と着る人の境をなくす」「一人ひとりに寄り添う」「次の世代に繋がるサステナブルな社会を作る」という3点の実現を目指す。これまでは全世界で10万人超の従業員が縦割りの構造で働いていたが、部門ごとにワンチームで連動し、かつダイレクトに世界中とつながっていく働き方に変えていく。
商品製造面では、作ったものを売るという従来のやり方から、情報プラットフォームをベースにAIなどテクノロジーを活用し、顧客の要望をリアルタイムに近い形で商品化に反映するなどサプライチェーンのスピード化を図る。それまで掲げてきた「Made For All」というコンセプトを、一人ひとりにジャストフィットする「Made For You」に変えるなど、事業のあらゆる面で「革命を起こす」と柳井会長はいう。
柳井会長が掲げる「正しさ」とはなにか
その根源には、柳井会長の「正しさへのこだわり」がある。同社の企業理念の価値観にも記された「正しさ」とは、多くの企業が当然としてきた自社のエゴの追求ではなく、一般市民に等しく通用する正しい考え方で経営するということだ。一片のごまかしもなく、長期的視点で顧客の生活の向上を目指すことだという。
拙著『店は客のためにあり 店員とともに栄え 店主とともに滅びる』(プレジデント社)に寄せた解説で、柳井会長はこう記している。
「今まで『本当に良い服とは何か』を考え続け、それをつくりだし、世界中の人たちに喜んでほしくて、いろいろな面で『正しさ』というものにこだわりながら商売をしてきました。
どんな商売でも、何の努力もせずに楽に儲けられるものなどありません。とりわけ小売業は、店を開けていれば自動的に売れるような簡単なものではない。お客様に繰り返し店に来ていただけるように、完成された会社・ブランド・店・商品・社員に一歩でも二歩でも近づけるように地道な努力を継続することが必要です。だからこそその営みの根本には正しさが必要なのです」