執務室の額にない「店主とともに滅びる」の言葉
柳井会長の執務室の額に書かれなかった「店主とともに滅びる」の真意とは、店主が正しさをないがしろにしたとき、企業はあっけなく滅びることを指摘したものだということがおわかりだろう。昨今の企業による不祥事が、それを如実に証明している。
「昭和の石田梅岩」「日本商業の父」と言われ、多くの商業者に「師」と慕われた経営指導者、倉本長治の思想は、「店は客のためにあり 店員とともに栄える」に、この一文を加えて完成する。柳井会長は「もちろん、自らの戒めとして常に心にとどめている」という。その表れの一つが「有明プロジェクト」なのである。
柳井会長が正しさにこだわるのは、「正しくなければ、商売をする意味がないから」という。なぜなら、「企業は社会の公器であり、お客様や社会に自分たちが提供できるもの、提供すべきものは何かを考えてこそ存続を許される」と柳井会長は明言する。
このとき、倉本長治の盟友であり、ともに経営指導に半生をかけた指導者、新保民八の次の言葉を思い出す。
正しきに
拠りて滅びる
店あらば
滅びてもよし
革新的であっても、原理原則を無視すれば滅ぶ
正しさこそ事業の事業を通じて実現すべき命題だと新保は指摘する。しかし、単に正しいだけでは企業の永続性は保証されず、過去に多くの企業が市場から消えていった。じつは、新保は次のように言葉を続けている。
古くして古きもの滅び
新しくして新しきものまた滅ぶ
古くして新しきもののみ
永遠にして不滅
「お客様のニーズは常に変わり続けています。とくに今からの変化はさらに激しいでしょう。いくら正しくても、現状に固執していては生き残ることはできません。しかし、いくら革新的であっても、古くからの原理原則をないがしろにする店も同様に滅びます。原理原則とは『店は客のためにある』ことです。
唯一永遠不滅たりうるのは、原理原則に基づき革新を続ける企業だけです。これが新保さんの言わんとするところではないでしょうか。当社が目指すところもここにあります」(柳井会長)
話を「有明プロジェクト」に戻そう。目指す情報製造小売業の実現には、次の5つのコンセプトが必要と同社は説明する。