北朝鮮の統治の歴史で「女性指導者」は異色

北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記の妹、金与正(キム・ヨジョン)氏の存在感が日増しに高まっている。朝鮮労働党中央委員会の宣伝扇動部副部長を務め、国家の正式な序列は上から40位ほどだ。

全国非常防疫総括会議で討論する朝鮮労働党の金与正副部長=2022年8月10日、北朝鮮・平壌
写真=朝鮮通信/時事通信フォト
全国非常防疫総括会議で討論する朝鮮労働党の金与正副部長=2022年8月10日、北朝鮮・平壌

だが、金兄弟の末っ子として金正恩氏から寵愛を受け、約束された地位をほしいままにする。さらに、行く手を阻む者は米大統領であろうと口汚く罵り、気に食わなければ身内の処刑も厭わない残忍な性格で、北朝鮮の高官らを震え上がらせている。実質的に金正恩氏に次ぐ北朝鮮のナンバー2の地位を占めており、豪紙は「(政府高官など)名目上の上役さえ、みな彼女にひれ伏すのだ」と報じる。

FOXニュースは、北朝鮮の専門家が「世界一危険な女」とみなしていると報道。北朝鮮の核兵器に関する権限を持っている可能性があり、その強大な権力が懸念材料になっていると指摘する。加えて金与正氏は北朝鮮の次期指導者と目されており、彼女の力と影響力がさらに増してゆく懸念があるという。

およそ75年間におよぶ金一族による統治の歴史の中でも、異色の存在だ。米CNNは、家父長制の色濃い北朝鮮の政治環境において、金一族として初めての有力な女性指導者になったと論じている。

「若く、写真映えし、賢く、辛辣」

2018年に韓国で開かれた平昌冬季オリンピックでは、開会式への出席で初めて韓国を訪れて注目を集めた。以来、北朝鮮のスポークスパーソンとしての役回りを遂行。南北関係を含む重要な課題に舌鋒ぜっぽう鋭い発言を行ってきた。

CNNは、現在の金与正氏は「若く、写真映えし、賢く、辛辣しんらつ」であり、幼少期の「かわいいお姫様」から「中世の残忍な絶対王政のような、時に口汚い指導者」へ変化したと述べている。

オリンピック開会式ではタイトな黒のスーツを着こなす姿が話題になり、韓国では「かわいい」との評判さえ立った。だがその本性は対極にある。北朝鮮が失態を犯し国際社会から嘲笑の的となるたび、あるいは批判を浴びるたびに、切れ味鋭い弁舌で批判者を返り討ちにするのが彼女のスタイルだ。