だが、その姿はまやかしにすぎない。東アジア研究者であり北朝鮮情勢を20年間研究している米タフツ大学の韓国の李晟允(イ・ソンユン)教授は、今年6月刊行の書籍『The Sister: North Korea's Kim Yo Jong』において、金与正氏を「世界一危険な女性」と指摘している。

李氏の見解を報じるFOXニュースによると、彼女が北朝鮮の次期指導者になる可能性すらあるという。金正恩氏のまだ幼い子供たちが元首に就くまでのあいだ、実権を握る流れは現実的だと見ている。

韓国大統領に「極めて単純で幼稚」と言い放つ

諸外国に対する金与正氏の無作法な言動は、北朝鮮の将来にとって吉と出るのだろうか。救いの手を差し伸べる者に対しても、時に切れ味鋭い言葉を投げつける。

新型コロナのパンデミックの際、北朝鮮にはほとんどワクチンもなく、国民生活の困窮が懸念された。2022年8月、見かねて支援を申し出た韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領を、金与正氏は「単純」と評し、「口を閉じるべきです」とはねつけた。支援と引き換えに核軍縮を要請したことで、金与正氏の怒りに火を付けたようだ。

テレグラフ紙が朝鮮中央通信の報道内容を伝えたところによると、金与正氏は、核軍縮と引き換えの経済支援提案を「愚かな行為」と猛烈に批判。「口をつぐんでいた方が、彼のイメージにとって幾分ましだったのではないでしょうか」と述べている。

さらに声明を通じ、「北朝鮮が武器プログラムと引き換えに援助を受け入れると考えるのは、極めて単純で幼稚です」と主張。「運命を、(韓国で人気のスイーツの)コーンケーキと交換する者などいない」とも付け加えた。

これに対し韓国統一省は、「強い遺憾の意」を表明。北朝鮮が核兵器の製造を続行する意志があることの表れだと指摘している。

北朝鮮情勢を報じる英NKニュースによると、金与正氏は尹大統領を「世間知らずの子供」と断定。コロナ禍の支援策については「吐き気を催す」「愚かなもの」だと述べ、「尹錫悦を人間として憎む」とまで加えた。

金与正氏は隣国・韓国について、特別な憎しみの感情を持っているようだ。ニューヨーク・タイムズ紙が2020年に報じたところによると、反・北朝鮮ビラを撒いた韓国の活動家たちを指し、「人間のクズ」「雑種犬」と罵倒した。ニューヨークタイムズ紙は金正恩氏と比較し、「彼は獰猛だ。彼女はさらに獰猛だ」と評している。

与正氏は「悪い警官」を演じているだけなのか

一連の強烈な発言の裏には、金正恩氏のイメージを守り、さらには北朝鮮の立場を強化する目的が隠されている。

2021年にはソウルとの合同軍事演習に臨んだアメリカに対し、「悪臭を撒き散らすな」と警告した。英BBCは、このように彼女が強い発言で諸外国に対応している理由は、宣伝部の主要幹部としての役割を果たし、兄である金正恩のイメージを守ることにあると説く。