アスリートに「育てるべきは内的評価」と話す理由

また、アスリートの場合、怪我一つで試合に出られなくなりランキングが落ちたりすることもあります。さらに失言一つでそれまでの人気が失われるどころかバッシングのターゲットになってしまう場合もあります。

女子アイスホッケー選手
写真=iStock.com/RichVintage
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外的評価とは、さまざまな要因が関わり、時には努力とは無関係にアップダウンするもの。ですから、外的評価にフォーカスしてしまうと心がとても不安定になりやすくなるのです。

一方で成績が出せなくても、それまでしてきた努力や達成感は消えてなくなるわけはなく、すべて自分の財産になっている。そこへ至る過程に対する評価は、外的評価が変動しても、変わりません。これが「内的評価」です。

アスリートなら結果を望んで当然です。結果を求めることと、結果を求めるための過程を大切にすることは相反する考えのように捉えられがちですが、実は両立するものなのです。

外的評価だけでは行き詰まってしまうこともあり、そんなときに裏切らないのが、この内的評価です。

それゆえに努力に応じた結果が出ないことで悩んでいるアスリートや、他選手との比較に苦しむ選手、さらに外的評価が高い位置にいるアスリートにも「育てるべきは内的評価の方である」という話をすることが多いです。

そしてこの話は、今本書(『REAPPRAISAL 最先端脳科学が導く不安や恐怖を和らげる方法』)を手に取り読んでくださっている皆さんにもぜひお伝えしたいことです。

内的評価が自尊心を育てると再評価もしやすくなる

内的評価に関して、フィギュアスケートのヴィンセント・ゾウ選手の感動的なエピソードを紹介しましょう。彼はアメリカ代表として北京オリンピックに出場しましたが、団体戦を終えた後に新型コロナウイルスの検査で陽性が判明し、その後の競技参加が叶わなくなってしまいました。

そのとき彼がSNSで発信した動画では「これまで感染予防に最大限注意を払ってきた」と涙ぐみ、悔しさをにじませましたが、続けてこう話しました。

「試合に出られないことはとても残念だ。けれど、自分が小さい頃に思い描いていた『こういうスケーターになりたい』というスケーターには、自分はすでになっている」と。

予想外の悲劇の最中に複雑な感情を抱えながらの少し無理をした発言だったかもしれないのですが、まさにこの言葉に内的評価が表現されていると思うのです。

内的評価は自尊心を育てます。そして自尊心があればあるほど、「自分の考えを見直してみる」という再評価もしやすくなると私は考えています。

自信をなくしたとき、嫌な思いをしたときには、外的評価をいったん脇に置いておいて、内的評価という軸で自分の歩んできた人生やこれまでの経験を眺めてみてください。きっと違った景色が見えてくるはず。再評価のプロセスの一つとしてぜひ活用してみてください。