長洲未来選手に学ぶオーナーシップ

「オーナーシップ(Ownership)」とは直訳が「所有権」になりますが、心理学用語として、「自分の選択は自分でする。その結果にも自分で向き合う」と自分の判断や経験、意見を「所有」することを意味します。

この「オーナーシップ」を持てるかどうかで、再評価の過程も変わってくるものだと教えてくれたのは、私の友人で、フィギュアスケーターの長洲未来さんです。

アメリカでは5月がメンタルヘルスの啓発月間です。その一環として、2021年にハーバード大学とマサチューセッツ総合病院に私が企画を出し、長洲未来さんとの対談の講演と動画配信が実現しました。

彼女は14歳という若さで全米チャンピオンになり、アメリカ人女性として初めてオリンピックでトリプルアクセルを成功させたスケーターです。

しかし、その道のりはいつも順調だったわけではありません。2度の五輪出場を叶えるも、2014年の五輪メンバーには選ばれませんでした。

多くのアスリートはここで諦めてしまうかもしれませんが、彼女は次のオリンピックを目指し、さらに4年間のトレーニングを積む道を選びました。

その結果、2018年のオリンピックの団体戦では見事トリプルアクセルを成功させ、アメリカチームの銅メダル獲得に貢献しました。

この年のオリンピックで、トリプルアクセルを試みた女性選手は未来さんだけでした。当時24歳。フィギュアスケート界では「高齢」と呼ばれる年齢で、まさに偉業を成し遂げたのです。

アイスアリーナのフィギュアスケートの女性
写真=iStock.com/Artur Didyk
※写真はイメージです

10代半ばから「強いメンタル」を期待されるアスリート

彼女が世界的なフィギュアスケーターとして知られるようになった14歳というと、日本なら中学生の年齢であり、ようやく自分探しを始めたばかりの年頃です。これから人生経験をたくさん積んでいく年齢であるにもかかわらず、たった一人で氷上に立ち、大勢から評価される立場に置かれていました。

私との対談で未来さんは、「子ども時代は確かに簡単ではなかったけれど、新しい体験としてスケート自体を楽しんでいた。問題なのは、結果が出せないときで、調子の悪い時期が続くと、こんなにお金と時間を費やしてまですることなのかと考えてしまうことだった」と語りました。

トップクラスのコーチに師事し、競技を続けていくために金銭面をスケート連盟からの支援に頼っていたのです。それゆえ、ランクが下がっていくのは筆舌に尽くしがたい苦しさがあったそうです。

もちろん援助があるだけでも恵まれているのですが、次の年にも援助を受けつづけるためには結果が求められます。彼女は次第に強いプレッシャーを感じるようになっていきました。

人の前頭前野は20代後半まで発達すると言われており、10代半ばというとまだ発達段階の途中です。しかし、アスリートはしばしば子どものうちから「強いメンタル」を持つように期待されます。

10代の未来さんが、大会で優勝するようになると、多くのスポンサーの目に留まるようになりました。結果を気にかけてくれる人がいるのだと思うと、「どうしよう」という気持ちになり、うまく結果が出せなくなったそうです。