患者と医師の間に「共通の言語」がない

①社会の潮流として、患者さん中心の医療にシフトしていく中で、インフォームドコンセント(医師や看護師が病状や治療について十分な説明をして、患者さんが納得したうえで医療行為に合意すること)が重視されるようになった。医師による説明と患者さんの納得が不可欠だという意識が、社会全体で高まっていた。

②ひとりの声とは、患者さんの声のこと。慢性的な痛みを持つ人の多くは、「この痛みは医師にわかってもらえないだろう」「病院で診察してもらっても、本当に治るのだろうか」と治療をあきらめてしまっている。

③製薬会社は神経の痛みに関する治療薬を提供する企業の使命として、慢性的な痛みに悩む患者さんたちのQOL向上に寄与したいと考えていた。そのための社会環境づくりを強く望んでいた。

④そうした中で望まれる未来とは、慢性的な痛みを持つ患者さんたちが医療機関を受診し、医師とスムーズにコミュニケーションをとってもらうことである。

これらの状況を踏まえたうえで、真の課題(=問い)とは何でしょうか。

私たちは、患者さんと医師の間に痛みを伝える共通の言語がないことだと考えました。それは、適正な診断を妨げたり、治療におけるゴールの共有が阻害されたりすることにつながっています。

問いを立てたら、この問いに対する「答え」すなわち新しい「あたりまえ」と、それを世の中に浸透させるコアアイディアである「最適解」を探ります。何に着目し、どのようにそれらを導いたのかを、次の項目で詳しくお話ししていきます。

「10段階にしたらどのくらいですか?」と聞かれても…

神経の痛みは、けがによる痛みと違って目に見えないため、医師の対応は診察や問診が中心となります。必ずしもレントゲンを撮るわけではなく、患者さんが医師に症状を訴え、その内容をもとに診断されます。

問診をする医師
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患者さんが言葉で症状を伝えるということは、発する言葉によって医師側の判断に影響を与える可能性もある。となると、患者さんと医師が共有できる痛みの言語がないのではないだろうか。私たちは、ここが問題の本質だと考えました。

筆者自身も昔、突然おなかに鋭い痛みが走って動けなくなったことがあり、病院に電話をしたとき、今の症状をうまく伝えられなかった経験があります。電話口で「痛みを10段階にしたら、今はどのくらいですか?」と聞かれ、うまく答えられなかったのです。痛くて痛くて転がり回っているときに、ようやく「7くらい」と答えたのですが、こちらの切迫度と病院側の受け取り方の間に温度差を感じ、痛みをわかってもらえない辛さを実感しました。

症状を言葉で正確に伝えることは、非常に難しい。もし、皆さんが何らかの痛みを感じていて、家族にその症状を伝えようとするとしたら、どのように表現しますか?