※本稿は、オズマピーアール、榑林佐和子、林直樹『世の中の最適解を共に考える 「問い」を立てる力』(ディスカヴァー ビジネスパブリッシング)の一部を再編集したものです。
目に見えないからこそ見過ごされやすい
本稿でご紹介する「痛みのオノマトペ開発」は、言葉の力で医療コミュニケーションの課題に挑んだプロジェクトです。言語や医療の専門家に協力を得て、痛みを表現するオノマトペと疾患との相関を導き出し、医療の現場で活用できるようにしたところがポイントとなっています。
プロジェクトの全貌と社会デザイン発想による考え方について見ていきましょう。
多くの人が悩みつつも放置している、慢性的な神経の痛み。この痛みは外傷のように目に見えるわけではないため、症状があっても見過ごされやすいのが特徴です。そんな症状のある人の医療機関への受診を促進すると共に、患者さんを医師がスムーズに受け入れられるようにしたい――そのための社会環境づくりについて、製薬会社と共に取り組みを進めました。
この製薬会社は神経の痛みの治療薬を開発し、世界中で提供しています。一方でこの病を取り巻く課題として、患者数が非常に多いにもかかわらず、実際に医療機関を受診する人が少ないという状況があります。
「痛みは我慢する」日本人が74.3%
日本国内でも慢性の痛みを抱える人は、約2700万人いると言われており、2009年に行われた厚生労働省による「慢性の痛みに関する検討会」でも深刻な社会課題として取り上げられました。慢性の痛みはQOL(Quality of Life=生活の質)を著しく低下させたり、就労の損失を招いたりすることから、社会的な損失が大きいと指摘されています。
特に日本では痛みを我慢することが美徳とされる傾向があり、慢性的な痛みを持っていても医療機関を受診しない人が多くいます。2012年に実施した、慢性疼痛患者を対象とする調査では、「痛みは我慢する」(74.3%)、「病院に行くほどでもない」(31.2%)という結果が出ました。多くの人はマッサージを受けたり、市販薬を服用したりするものの、なかなか医療機関を受診しないことがわかったのです。
慢性的な痛みを抱える人たちの適切な治療を促すにはどうすればいいか。私たちは、医療機関を受診しない理由について考えました。