なぜトヨタは「SUVと呼ばないで」と言ったのか
取材陣が「SUVタイプということですが」と尋ねた時のことです。カコミ取材に対応していたトヨタの中嶋裕樹副社長は答えました。
「われわれは一言もSUVとは言ってないんですね。今日(発表会)も誰も言ってないですね。ですからぜひともSUVではなく、新しいセンチュリーと呼んでください!」
突如、衝撃的かつナゾ多き新車がデビューしました。一部マスコミが「センチュリーSUV」と事前報道していたトヨタの挑戦的新高級車です。全長×全幅×全高は約5.2m×約2m×約1.8mと破格。クラウンはおろか大抵のミニバンよりもデカく、最低地上高も185mmと確かにSUVと言われてもおかしくないスペック。
しかしそれでいてランクルのような武骨なワイルドデザインではなく、フォーマルなショーファードリブン(運転手付き)のムード。ボディパネルの優雅な曲線美は、1967年から続く皇族御用達の別格セダン、センチュリーそのもの。威圧感というより威厳を感じる大型グリルや、トヨタが「几帳面」と呼ぶ精緻なプレスラインはセンチュリーセダン譲りですがフォルムは似ても似つきません。
ライバルはロールス・ロイスではない
今回トヨタ側は一言も「SUV」と言っていませんし、車名にもSUVとは付きません。おそらく「センチュリーSUV」として作ったつもりがないからでしょう。
ただし、クルマに詳しくない人からすれば「SUV」と名付けられたほうが分かりやすいですし、既存センチュリーセダンとの見分けもしやすい。今後、両車は併売されるわけですがボディタイプは全く違うのに車名は一緒。この当たり正直ユーザーは困惑するでしょう。
よく4000万円級の高級SUV、ロールス・ロイス カリナンと似ていることも指摘されますがそれも致し方ないと思います。
クルマに詳しい人に言わせると既存センチュリーセダンの美しさやたおやかさを移植した新基軸のセンチュリーであり、SUVではありません。ただし、一般の人から見ると他の超高級SUV、ランボルギーニ・ウルスやフェラーリ・プロサングエよりよほどロールス・ロイスSUVに似ているし、存在感も近いのです。
ところがトヨタ側は決して「SUV」と言いたがらないし、カリナンのライバルとも言いません。このあたりがこのクルマ最大の謎であり、面白いところなのです。