トヨタにとって聖域と呼べる特別なクルマ

なぜトヨタは新型にSUVと付けないのか? なぜ背高フォルムなのか? 価格はセダンよりも高い2500万円なのか? なぜ月販目標台数がわずか30台に過ぎないのか。

今回はいろんな不思議がありますが、その前にはセンチュリーの特殊性を知っておく必要があります。

そもそもセンチュリーは単にクラウンやレクサスを超えた高級車ではありません。ある種トヨタにとって聖域とも呼べる特別なクルマなのです。

生まれはトヨタの世界的代名詞、カローラ誕生翌年の1967年。以来現行モデルに至るまで作られたのはわずか3世代のみ。初代は約30年間、2代目は約20年間作られ、現行3代目もおそらく長く作り続けられる予定でしょう。

しかも2018年の現行誕生時のリリースでは月販目標わずか50台と少なく、要するにより多く売って稼ぐための存在ではありません。

言わばトヨタのプライドであり、日本の物作りを象徴する純国産セダン。ユーザー対象は官庁、政治家、大企業トップ、そして皇室の方々。日本の限られたVIP向けであり、海外輸出も前提とはしておりません。

事実3代目発表時に、小沢は開発責任者の田部正人さんに何度もお聞きしました。ホントにこれで利益が出るのですか? と。

すると「赤字でいいということはありません」同時に「沢山儲けようともしておりません」という答えに終始されました。まさに日本の物作り技術の集大成としての高級車なのです。

3代目のセンチュリーセダン
画像提供=トヨタ自動車
3代目のセンチュリーセダン

国産最後のVIP用高級車

驚くべきは圧倒的クオリティで、塗装はレクサスの5層を超えた7層コート。手間の掛かる水研ぎが3回もあり、1台ほぼ40時間もかけています。美しい鳳凰エンブレムも手彫りの型を使ったもの。ある意味効率度外視。一部、手工業的な行程で作られています。

そこには創業者、豊田喜一郎氏の「世界に認められる国産車の完成」という願いが込められています。1960年代当時クラウンに続き、センチュリーを担当した伝説のチーフエンジニア、中村健也氏はこう言ったそうです。

「今までにない新しい高級車を作ろう」

その思いで作られたセンチュリーは、その後56年間も作られ、揺るぎない品質で日本のVIPを喜ばせ続けました。そこには理屈やビジネス効率を超えたトヨタのプライドが詰まっているのです。

かつて日産にはプレジデント、三菱にはデボネアというVIP用の高級車がありましたがどちらも消え去りました。しかしセンチュリーは現存していますし、まだまだ残り続けなければならないのです。