1966年にMIT教授がチャットボットを開発

ピエールが自殺した後、彼の未亡人は「もしエライザがいなければ、私の夫は今も生きていたでしょう」とラ・リーブルの記者に語りました。

チャイが提供するチャットボットの「エライザ」という呼称は、歴史的な背景に因んでつけられた名前かもしれません。

1966年、米MIT(マサチューセッツ工科大学)のコンピュータ科学者であるジョセフ・ワイゼンバウム教授が「エライザ(Eliza)」と呼ばれるチャットボットを開発し、心理療法を想定したテストの被験者を相手に使ってみました。

当時のエライザは現在の大規模言語モデルとは似ても似つかない、非常に単純なパターン認識と言語ルールに基づいて設計された初歩的な対話型AIでした。その会話力は、被験者の打ち明けた悩みを鸚鵡おうむ返ししたり、簡単な相槌を打つ程度の能力に過ぎません。

AI
写真=iStock.com/Ole_CNX
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子供騙しのような会話でも心が癒された

たとえば以下のような会話です。

被験者:最近、ちょっとストレスを感じているんだ
エライザ:ストレス?
被験者:うん。仕事が捗らなくてね
エライザ:大変ね
被験者:それに、また大きなプロジェクトがある
エライザ:大きなプロジェクト?
被験者:うん。また夜遅くまで働かなくちゃ
エライザ:可哀そう
……以下、同様

この程度のチャットボットであれば、当時の初歩的なAI技術でも十分に実現可能でした。ところが、これほど単純でほとんど「子供騙し」とでも言えるようなエライザでも、この使用テストに参加した被験者は心が癒されたといいます。コンピュータ・ディスプレイ上で交わされるAIとのチャットを、どこか別の場所にいる本物の女性とのリモート会話であると錯覚していたのです。

このような被験者の反応に驚いたワイゼンバウム教授は(エライザの心理療法的な効果にもかかわらず)むしろこの種のAIへの反対派に転じ、「コンピュータが真に人間的な問題に向き合い、人間の言葉で対処するようなことがあってはならない」と主張しました。