AIが人間の仕事を奪うというのは本当なのか。KDDI総合研究所リサーチフェローの小林雅一さんは「米プリンストン大学の調査では、人文科学系の大学教授や法律事務職、保険外交員が大きな影響を受けるという結果だった。生成AIは人間が長年の経験によって培ってきたスキルも代替できるので、ベテラン社員はこれまでより不利な状況に置かれるだろう」という――。

※本稿は、小林雅一『AIと共に働く-ChatGPT、生成AIは私たちの仕事をどう変えるか-』(ワニブックス【PLUS】新書)の一部を再編集したものです。

AIラベルの付いた暗い雲で覆われた人の頭
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生成AIが3億人分の仕事を置き換える

米ゴールドマン・サックスは「(ChatGPTなどの)生成AIは世界全体で3億人分の仕事を置き換える可能性がある」とするレポートを発表しました("The Potentially Large Effects of Artificial Intelligence on Economic Growth(Briggs/Kodnani)",Goldman Sachs Economics Research, 26 March 2023)。

それによれば、米国では現在存在する職業の約3分の2が生成AIの影響を受ける見込みです。ただし影響を受けるとは言っても、それらの仕事が必ずしもAIに奪われるというわけではありません。AIに置き換えられる恐れがあるのは、それら(影響を受ける)職業の25~50パーセント程度といいます。

様々なポストの中でも、特に事務・管理支援職の46パーセント、法律事務職の44パーセント、建築設計・エンジニアリング職の37パーセントが生成AIの影響を受けると予想しています。これらは米国の雇用市場に与える影響ですが、欧州でもほぼ同じ調査結果となっています。

アメリカのZ世代、高卒の70%以上が懸念

また、その裏返しでもありますが、逆に「生成AIの活用によって労働生産性が向上し、世界のGDP(国内総生産)を約7パーセント引き上げる可能性がある」とするポジティブな予想も示しています。世界のGDPは推計で約85兆ドル(1京2000兆円)程度と見られますから、その7パーセントは約6兆ドル(840兆円)と莫大な金額です。

一方、米国のオンライン就職斡旋業者が実施したアンケート調査では、現在米国で仕事を求めている人の62パーセントが「ChatGPTと生成AIが自分達の仕事を代替する事を懸念している」と回答しました("The ZipRecruiter Job Seeker Confidence Survey," ZipRecruiter, 2023 Q1)。このような懸念を抱く人の割合は、より若い世代で、なおかつ教育年数が短くなるほど増します。

例えば「ベビー・ブーマー(1945~1964年に生まれた人達)」の41パーセントが生成AIに懸念を抱いているのに対し、「ジェネレーションZ(1997年以降に生まれた人達)」ではその割合が76パーセントにまで高まります。

また大学院の学位を持っている人達では生成AIに対する懸念を抱いている割合が全体の52パーセントですが、最終学歴がハイスクール(高等学校)の人達では72パーセントにまで高まります。