コミュニケーション能力と度胸

撮影=中村治

命に関わるこの仕事はやり甲斐がある。しかし、自分がやっていることが本当に正しいのか、悩むこともある。

「私たちの患者さんって、急性期なので意識がない方も多い。ダイレクトにありがとうって言ってもらえる機会がほとんどないんです。その後の治療につなげて良かったという達成感もあるんですが、それで本当に良かったのかな、他のフライトナースだったらもっといい処置ができたんじゃないかって思うこともしばしばなんです」

いくら経験を積んでも、自分がやったことのない症状の患者さんに当たったときはもう絶望でしたと、苦笑いした。

「自分がこの仕事に向いているかというと分からない。(救命救急の仕事を)やっていて良かったと心から思う日がいつ来るんだろうって思うことがあります。生涯勉強なんでしょうね。だから楽しいのかもしれませんけど」

2022年秋、忠田は看護師長となり、フライトナースの8人から外れた。救命救急センターに所属する65人の看護師を束ねる彼女が今、注力しているのは、後進の育成である。

救命救急の現場に向いている看護師の資質について訊ねると、コミュニケーション能力と度胸だと忠田は答えた。

「何を言われても大丈夫っていう精神というか、ドクター、(救急隊の)消防の人たちとのやりとりもある。どんな技術を持っていてもコミュニケーションが取れない人は難しい」

スタッフのために何かしたい、守りたいという気持ち

フライトナースを志望する看護師は多い。忠田は声を掛けて、その道を示すようにしている。

鳥取大学医学部附属病院広報誌『カニジル 14杯目』
鳥取大学医学部附属病院広報誌『カニジル 14杯目』

「管理者の言葉ってすごくスタッフにとっては大事だと言われたことがありました。自分が掛けた言葉一つで、スタッフの気持ちが変わる。(救命救急の)外来であっても、病棟であっても、みなさん家庭を持ちながら激務をこなしている。だから、スタッフのために何かしたい、守りたいという気持ちがすごくある」

救命救急センターは、医師も看護師も大変だけれど、お互い理解して支え合っている、いいところだと思うんですと噛みしめるように言った。

2008年にとりだい病院に入職してから、忠田は救命救急センター一筋である。

「師長になった瞬間から、異動になるカウントダウンが始まったと私は思っているんです。次の師長さんが来たときに困らないような体制を整えなければならない」

なんか寂しいなって思うことがあるんですと付け加えた。

今も忠田はフライトナースとして登録している。不測の事態で人手不足になったときはドクターヘリに乗る覚悟はあるが、その機会は一度も訪れていない。また現場に出たい、ヘリに乗りたいって思うことがときどきあるんですよね、と弾けるように笑った。

忠田 知亜紀(ちゅうた・ちあき)
東伯郡琴浦町出身。2003年鳥取県済生会看護専門学校卒業。総合病院、整形外科医院での勤務を経て、2008年鳥取大学医学部附属病院に入職。救命救急センターへ配属。2014年日本航空医療学会主催のドクターヘリ講習修了書取得。2018年救命救急センター副看護師長、2022年より看護師長となり、現在もフライトナースに登録する傍ら後進の育成に注力している。
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