歯は万病の元といわれるが、正しいケアはできているか。鳥取大学医学部附属病院歯科口腔外科の歯科衛生士・石見香穂さんは「歯ブラシで磨けた気になっていても、実はブラシの角度が全然合っていないことが多い。私が診ている患者さんだけでも、7、8割ぐらいは歯の裏側や歯の間が磨けていない」という――。

※本稿は、鳥取大学医学部附属病院広報誌『カニジル 13杯目』の一部を再編集したものです。

口腔がん治療から“全身的な理由”の患者まで対応

とりだい病院歯科口腔外科には、令和5年3月現在、歯科医師15名が所属しており、歯に関わる疾患のみならず口腔、顎、顔面領域全般にわたる、いわゆる「口腔顎顔面外科」を謳っている。

「口腔」とは消化管の入口部分を指す。口腔の前方では唇が外界と接し、後方は咽頭につながっている。この複雑な構造をまず理解する必要がある。

「基本的に地域の歯科医院では扱うのが難しい疾患を治療しています。広い意味では、専門的な検査、手術、入院加療が必要な疾患と言ってもいいかもしれません。例えば、親知らずの抜歯、口腔がん、口唇裂・口蓋裂などですね」

口腔腫瘍(がん)・口唇口蓋裂を専門としている藤井信行助教は、こう話す。

口腔がんは進行すると、多くの場合、顎の下や首のリンパ節に転移する。さらに進行すると肺に転移し全身に広がっていく。適切な処置を施さねば命にも関わる重大な疾患となる。治療の基本は、がんの切除。切除する部位やがんの大きさによっては、再建や移植手術を同時に行うこともある。

「大きな口腔がん手術で、再建が必要な場合、自分たち口腔外科だけで手術をするのではなく、形成外科の先生などと協力して、12時間――それこそ本当に1日がかりの手術になったりもします」

こうした専門的な治療の他、歯科口腔外科では、虫歯治療や義歯の調整など、いわゆる一般歯科治療も行なっている。

「入院患者さんに歯や義歯のトラブルがあるとき、かかりつけの歯科医院を受診することができないので、私たちが治療します。同じように全身的な理由で歯科医院を受診するのが難しい外来患者さんの治療もします」

“全身的な理由”には他科との連携が含まれる。そして、歯科口腔外科のもう1つ重要な仕事が、手術の前後に行う周術期口腔機能管理(口腔ケア)である。

全身麻酔をする手術においては、誤嚥性肺炎などの術後合併症を予防し、気管挿管の際に歯が抜け落ちてしまうのを防ぐことが重要になる。その重要性は広く周知されており、平成24年度より保険適応となっている。

歯科衛生士の石見香穂さん
写真=中村治