表裏をなくしたら部下を信用できるようになった

「損得勘定」で物事を判断していれば、一時的には目覚ましい発展を遂げても、長い目で見ると没落してしまう。盛和塾に入って私が学んだのは、「敬天愛人」で判断することで企業を長期的に安定して成長させることができるということだ。

「儲けたい」の一心で立ち上げた会社が2、3年で消滅。大企業でさえ、社員や幹部の不正により一瞬の内に潰れてしまう。実際にそんな例を何度も見た。

そして、私自身の会社が伸び悩んでいるのも、私が損得勘定で物事を判断していたからだと分かった。具体的にすぐに効果が出たのは、従業員との関係だった。「天がいつも自分を見ているとしてどんな働き方をしたら喜んでもらえるだろう」という視点で自分自身が仕事に取り組むようになったら、部下に対する私自身の見方ががらりと変わった。

自分が損得勘定なしに、つまり裏表なしに一生懸命仕事をし始めたら、部下もそうなのだろうと思えるようになったのだ。それ以来、部下を信頼して、良好な関係を築き、部下の能力を最大限に引き出すことがとても自然にできるようになった。

自己肯定感を上下させる4大要因

さらにこの「敬天愛人」で判断するという稲盛さんの教えは、私自身の自己肯定感にも大きな影響を与えた。

拙著『鋼の自己肯定感』では、私が長らく住んでいるシリコンバレーに住む人々の習慣をベースに心理学や脳科学など最先端の研究結果をまとめている。この中では、自己肯定感を上げ下げする4大要因を「他人からの評価」「他人との比較における自己評価」「成功と失敗」「不測の事態」と定義し、その対処法について述べている。この4大要因にいかに振り回されず、確固たる自己肯定感を持つことができるか。実は、その方法の土台を築いてくださったのは、稲盛さんだ。

損得勘定で動いていた当時の私は、この4大要因に見事に振り回されていた。他人の評価に一喜一憂していたし、人と比べては自分の評価を上げたり下げたりしていた。何かに成功すれば自己評価が上がり、失敗すれば下がっていた。そして予期せぬ出来事が起こると、「どうして私が」と不満を抱えていたのだ。しかし、稲盛さんの哲学を学んだ私は、この4大要因を全て手放すことができた。

どういうことなのか。一つひとつお話ししたい。