免疫療法の効果を高める理由
若いマウスから取った便を高齢マウスに移植すると、高齢マウスの学習や記憶に関する認知機能と免疫力が大幅に改善し、性格も恐れ知らずに変化しました(※3)。
※3 Heijtz RD, et al. Young microbiota rejuvenates the aging brain. Nat Aging 2021; 1:625-627.
若いマウスの便には、代表的な乳酸菌として様々な胃腸薬や腸活サプリに含まれているエンテロコッカス・フェカリスという腸内細菌が多く含まれており、これが何らかの役割をしていることが推測されています。
こうしたうんちの移植はなんと実際に人間でも試されており、がんの免疫療法にも応用されています。がんの免疫療法とは、自分の持つ免疫力でがん細胞を攻撃する方法ですが、悪性度が高いがん患者の一部にはうまくいかないことがあります。
そこで、免疫療法の効果があった患者からなかった患者へ「うんちの移植」を行ったところ、移植を受けた患者の40%で免疫療法が効くようになり、最も効果があった患者では、がんがほとんど消えていました。
免疫力がアップした患者の腸内では、移植されたうんちに含まれる細菌に対抗しようと、抗体が作られますが、この抗体が、うんち中の細菌だけでなくがん細胞も攻撃したのです(※4)。
※4 Davar D, et al. Fecal microbiota transplant overcomes resistance to anti-PD-1 therapy in melanoma patients. Science. 2021; 371(6529): 595-602.
うんちが薬になる時代がやって来る
ほかにも、太りやすい人にやせた人の便移植をしてダイエットに役立てたり、腸の炎症を治療したりする試みも成功しています(※5)。
※5 van Nood E, et al.Duodenal infusion of donor feces for recurrent clostridium difficile. N Engl J Med.2013; 368: 407-415.
もちろん、うんちをそのまま口から入れるわけではなく、腸まで届く細いチューブを介して、必要な成分だけが入るようになっています。今後、美しい容姿を持つ健康な若い人のうんちは、薬として使われる時代が来るかもしれません。
帝王切開で生まれた赤ちゃんを守る
さて、もうひとつ、うんちが活躍する話を紹介しましょう。
赤ちゃんの出産方法の多くは、母親の産道を通って出てくる経膣分娩です。一方、何らかの事情により膣からの分娩ができず、手術でお腹を切って子宮を切開し直接胎児を取り出すのがいわゆる帝王切開です。
そして、赤ちゃんが腸内細菌を獲得するのは母親からといわれていますが、通常の膣から生まれた赤ちゃん(経膣分娩児)と帝王切開で生まれた赤ちゃん(帝王切開児)を比べると、腸内細菌の性質が異なっていることがわかりました。以前から帝王切開のリスクは研究されていましたが、そのメカニズムが腸内細菌の面から解明されつつあるのです。