収入は多ければ多いほどいい。ほとんどの人がそう考えるが、各種調査ではそうではないことが証明されている。心理学者のキャサリン・A・サンダーソンさんは「お金を執拗に追い求めるよりも、喜びを感じられるように日々を過ごすことによって、もっと多くの幸福感を得ることができます」という――。

※本稿は、キャサリン・A・サンダーソン『ポジティブ・シフト 心理学が明かす幸福・健康・長寿につながる心の持ち方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、本多明生訳)の一部を再編集したものです。

ボートに乗った漁師
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なぜ、旅行者より漁師のほうがリッチなのか

ドイツの作家ハインリヒ・ベルの短編小説に、裕福な旅行者が船の中で昼寝をしている漁師に出会う、素晴らしい物語があります1※。

その物語では、旅行者は漁師に近づいて、もっと頑張れば、何隻もの船を所有して、他の人に漁をさせることができるほどの収入が得られる、と漁を続けるように促します。漁師は、それをゴールとするべき理由を旅行者に尋ねます。その問いに対して旅行者は「そうすれば、あなたは、心置きなく、この港に座って、太陽の下でうとうと居眠りしながら、輝く海を眺めることができるんですよ」と漁師に答えるのです。

ご存じの通り、太陽の下でうとうと居眠りすることは、この漁師がすでにやっていることです。この物語は、現在、数多くの実証的研究が明らかにしていることを示しています。

私たちは、お金を執拗に追い求めるよりも、喜びを感じられるように日々を過ごすことによって、もっと多くの幸福感を得ることができます。裕福な旅行者は、漁師にさらにたくさんのお金を追い求めるように促しますが、賢い漁師は太陽の下で眠る時間が自分にとっての本当の幸せであることをすでに理解しています。

本章では、なぜお金が幸せをもたらさないのか、物質主義的な考え方が危険な理由、なぜ持っているお金を体験に費やすことが幸せへの一番の近道になるのか、について説明します。