論文の世界ランキングで凋落したワケ
――人材市場も今後は「若くて潑剌としている人を求める」ような偏りがなくなっていくことが期待できそうですね。
【小林】そうなると「高齢者」とか「老人」といった呼び方は落ち着きが悪い。「シニア」がいいですね。定義は「私利私欲が少なく、世のため人のために活動する人」といったところでしょうか。そういうシニアが増えると考えれば、高齢化社会をプラスに捉えられますよね。
――大学の現状はどうですか? シニアが排除されるような傾向はありますか?
【小林】それ以前の問題として、研究の分野が2009年ごろからまったく伸びていません。文科省の科学技術・学術政策研究所が行った2022年の調査によると、2018年から2020年における、自然科学分野で多くの研究者に引用された「質の高い科学論文」の世界ランキングで、日本は上位10位圏外に転落しました。また2018~20年の年平均数では、引用数が上位10%に入る質の高い論文の数が日本は3780本で、前年の10位から12位に後退しています。首位の中国とは10倍超の差をつけられ、11位の韓国にも追い抜かれました。
20年前はアメリカ、イギリス、ドイツに次ぐ4位で、10年前は6位と、下落傾向に歯止めがかからない状況です。ある意味、研究者人口が減っていて、予算も増えておらずしようがない部分はあります。けれども、定年制を利用してシニアの研究者を積極的に排除していったことも無関係とは言えないでしょう。
定年を過ぎてもまだまだ研究を続けられる人はたくさんいると思いますよ。現にアメリカの大学は教員に定年制がなく、多くのシニア研究者が活動を続け、分野を牽引し、若手を育てています。定年による線引きはなくしたほうがいいと、私は思っています。