定年制に反対するワケ

――定年退職して、そのまま社会生活からリタイアしたのでは、シニアとしての使命を果たしていないことになりますね。

【小林】そう、だから私は年齢で一律に解雇する定年制には反対です。辞めたかったら定年を待たずに辞めて、ほかのやりたいことをやってもいいし、会社に残って働きたい人はいくつになろうが仕事を続ければいい。定年制の名の下にシニアを排除していくようなシステムはあってはいけないと思いますね。

いま、一生懸命働いているシニアに向かって「老害」と揶揄したり、社会から排除しようとしたりする向きが一部であります。誰だってやがて年を取るのに、そういう見方はないだろうと違和感を覚えます。

シニアが社会基盤を整えて、そのうえで若い人が自由にイノベーティブに生きる。そういう2層構造があるからこそ、人間の社会は高い生産性を達成でき、発展していくのです。若者だけだったら、自分たちが欲望のままに暴走するのを誰も止められず、社会の秩序が乱れてしまうかもしれません。いいことはあまりないように思います。

下町の鉄工所で旋盤を操作するシニア男性の社長
写真=iStock.com/YOSHIE HASEGAWA
※写真はイメージです

【養老】高齢化社会がマイナスイメージで語られることが多いのは、人口が右肩上がりで増えていった時代の価値観が、少子高齢化社会になったいまもなお固定化したままだということが関係しているのではないでしょうか。

69歳を超えたら積極的な医療を提供しない

【養老】人口分布の変化は誰かが意図してこうなったのではありません。人口がどう推移しようと、本来、いいも悪いもないはずです。高齢化社会にだって必ずプラスの面、マイナスの面がある。それなのにマイナスの面ばかり強調する風潮がありますよね。

典型的なのが医療制度です。高齢者人口が増える一方で、このままだと制度を担う若い世代がいなくなると、盛んに言われています。

だったら「人口は放っておいてもひとりでに増える」という時代に合わない価値観は捨てて、医療制度を変えればいいんです。そうすれば医療自体も変化します。たとえば「69歳を超えた人には、がんになっても積極的な医療を提供しない」と決めるといった方法もありますね。実際、そう提唱している専門家もおられます。