老後の一人暮らしは避けたほうがいいのか。医師の和田秀樹さんは「よく『一人暮らしは孤独』だと言われるが、家族と同居している高齢者のほうが自殺率が高いことが分かっている。『ひとに迷惑をかけたくない』という気持ちが高齢者を追いつめているのではないか」という――。

※本稿は、和田秀樹『65歳から始める和田式心の若返り』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。

頭を抱える高齢者
写真=iStock.com/byryo
※写真はイメージです

「お金があるゆえの不幸」も存在する

お金がもっとあれば、幸せなのに……。そんなふうに思っている人は多いことでしょう。しかし、私は、たくさんの高年者と向き合うなかで、「お金があるがゆえの不幸」があることを知りました。

高年者にもときどき、こんな人がいます。高級老人ホームに入居し、設備や調度品も立派な個室に住んでいるのに、いつも不機嫌そうにしています。1日3回、栄養バランスの整ったおいしい食事が、何もいわずとも出てくるにもかかわらず、「おいしい」と顔をほころばせることはありません。

彼は会社の社長でした。老後の資金は潤沢にあります。ですが、参照点が社長だった頃の自分にあります。現役時代には、社員が自分にひれ伏していたのに、今や自分を慕って会いに来る人はいません。参照点が高いぶん、「あんなに可愛がってやったのに、裏切りやがって」と人に対して不満を持ちやすくなっています。

老人ホームのスタッフはよく教育されていて、素晴らしい仕事をします。でも、どんなに親切にしてくれても、自分にひれ伏すことはありません。こうなると、「ここのスタッフはなっていない。オレは大金を払っているんだぞ!」と怒りが湧いてきます。

食事も同じです。現役時代に、料亭や高級レストランで豪勢な食事をしてきたのだとしたら、ホームの1食5000円の食事も、みすぼらしく感じてしまいます。つまり、どんなにお金があったところで、いや、お金があるからこそ、参照点も高くなりやすく、自らを不幸にしやすい思考を持つ人たちは、珍しくないのです。反対に、「お金がないがゆえの幸せ」もあります。