右派の人は左派、左派の人は右派の文献を読んでみる

では、前頭葉の萎縮に対して、どう老い支度をするとよいのでしょうか。

ここも、足し算健康術で考えましょう。一度萎縮してしまった脳を、再び大きくすることはできませんが、前頭葉がつかさどっている思考力を高めていくことは、何歳になってもできます。

そこで1つ、今日から実践できる方法をお伝えしましょう。

「そうかもしれない」という思考パターンを自分に足すことです。

「そうかもしれない思考」とは、誰かがいった言葉、本や新聞、雑誌などに書いてあった文章を鵜呑みにせず、

「そうかもしれないが、別の見方もあるよね」

と、積極的に別の考え方を探していくことです。

本棚の前で本を読む女性
写真=iStock.com/Yasuko Inoue
※写真はイメージです

前頭葉が老化すると、物事の「決めつけ」が激しくなります。自分が「こうだ」と思い込むと、周りが「そうとも限らないんじゃない?」と異論を唱えても聞き入れられなくなる状態です。こうして思考がこり固まり、頑固になっていくのです。

そこで、たとえば、保守的な政治志向の読者が多いとされる産経新聞を読んでいる人は、反対意見の論調を持つ朝日新聞を読んでみてください。

「そうかもしれない思考」を行うことで、「その意見も一理あるな」「やはり、ここは違うんじゃないか」など、思考の幅が格段に広がるとともに、前頭葉にも刺激を与えられるのです。

ほかにも、時代劇のドラマが好きな人は恋愛のドラマを見てみるなど、普段は接しないジャンルに挑戦するのも有効です。

このようにしていれば、たとえ前頭葉が萎縮しても、柔軟性があって前向きな考え方ができるようになるでしょう。

自分を苦しめる「かくあるべし思考」の呪縛

心の老い支度では、物事の受け止め方を変えていくことが大切です。

前頭葉が老化すると、物事の「決めつけ」が激しくなると先述しました。この物事を決めつける思考は、「かくあるべし思考」となって現れます。物事を「こうあるべし」と決めつけ、それに反することが許せず、不安を高めていく思考のあり方です。

たとえば、定年退職によって長年続けた仕事を辞めて、家にいる時間が長くなると、「オレは、もう社会から必要とされていない人間なんだ」と、自分を過小評価してしまう人がいます。

これは、「人間は働いて、人の役に立ってこそ、価値がある」という、「人とはこうあるべき」との決めつけによって起こる不安な感情です。

では、「人は働くのが当たり前」とは、誰が決めたのでしょうか。自分で「そうあるべき」と決めつけているだけ、それを常識と思い込んでいるだけのことなのです。

65歳を過ぎると、体力も徐々に落ち、若い頃と同じようには動けなくなります。そのとき、自分を「ふがいない」と思ってしまうのは、「動けるのが当たり前」と思い込んでいるからです。

このように、「自分はこうあるべき」という理想があり、その理想に囚とらわれていると、体力が落ちていく自分を情けなく感じてしまいます。

この「ふがいない」という感情は、「老いたら衰えるのが当たり前」ということを上手に受け入れられていないことの表れでもあります。

「かくあるべし思考」のように、人間の判断をゆがめてしまう思考パターンを「不適応思考」と呼びます。この不適応思考を持つ人は、精神的な落ち込みが強くなり、老人性うつを発症しやすくなります。

では、人はどうして不適応思考を抱いてしまうのでしょうか。それは、自分への要求水準が高い、いわば、頑張り屋さんだからです。

自分への要求が高いぶん、「頑張らなければいけない」と自分を追い込み、それができなかった場合、自分自身を情けないと感じます。

このように「かくあるべし思考」は、自分の考えで自分を縛るゆえに、思考が悲観的になっていくのです。