衆議院議員・元首相 安倍晋三(あべ・しんぞう)
1954年、東京都生まれ。成蹊大学法学部卒業後、神戸製鋼所勤務。その後、父・安倍晋太郎元外相秘書を経て、93年衆議院議員初当選。自民党幹事長、小泉内閣の官房長官を歴任後、2006年9月、内閣総理大臣に就任。07年9 月に辞任。
政界再編の鍵。陳腐な表現だが、それ以外言いようがない。自民党総裁選の結果がどうであろうと、安倍氏は今後、大きな影響力を発揮するだろう。まず自民党の保守政党としての再出発だ。橋下徹・大阪市長が率いる「日本維新の会」に国政の第3極としての影響力を発揮させるとしても、自公が維新の会と連立して保守本流の政策・理念を打ち出すとしても、安倍氏はキーマンとなろう。
祖父に岸信介、大叔父に佐藤栄作、父に安倍晋太郎というサラブレッド保守政治家。党内に敵が少なく、小泉純一郎元首相の息子・進次郎ら若手ホープからも慕われているのは、お育ちからくる人の良さだろう。だが政治家としての実務手腕もすこぶる高い。
2002年の日朝首脳会談では、官房副長官として、小泉首相(当時)とともに訪朝し、「北朝鮮の要求する公開謝罪を断固拒否して首脳会談を中断して即帰国するべきだ」と小泉氏を説得した。金正日が日本人拉致の犯罪を認めたのは、このことを盗聴で知ったため、と言われる。強く出れば弱腰になるとなめられていた日本政府に手ごわい相手がいるとの噂は、後に中国にも伝わった。
06年、最年少で首相の座についた後は相次ぐ閣僚の不祥事と07年の参院選惨敗の責任感からくるストレスに、持病の潰瘍性大腸炎の悪化がかさなり、途中で投げ出すように辞任した。だが、その短い任期中に教育基本法改正、防衛省昇格など懸案事項を地味に着実に処理した。
私的パーティーの席などで会う安倍氏は、首相まで務めた人物とは思えないほど腰が低い。それが首相辞任の挫折と慙愧の念を忘れていないせいだというなら、彼の実務手腕にもう一度、政治を託したいと思う人も多いだろう。
※すべて雑誌掲載当時