セルフレジが買い物客に「チップ」をせがむ
アメリカで「チップ疲れ(tip fatigue)」が広がっている。レストランでは通常、テーブルの担当スタッフに、小計額の15~20%程度をテーブルに残すのがマナーとされる。電子マネーが広まった現在では、会計時に任意の額を端末に入力する形式も浸透してきた。
本来は、良質なサービスに対して謝意を示すためのシステムだ。基本給だけでは生活水準に満たない、接客業などの労働者の収入をカバーする仕組みとしても機能している。
ところが最近では、担当スタッフへの心付けという本来の意味を離れ、セルフレジも買い物客にチップを要求するようになった。米経済紙のウォール・ストリート・ジャーナルは、あるスーパーでの事例を取り上げている。
この事例では、1400円ほどの会計に対して300円ほどのチップを促された。スタッフに商品をスキャンしてもらったわけでもなく、自分で機械に読み取らせただけなのに、誰に届くかもわからないチップを支払う。
本来は、店員への「感謝の気持ち」のはずだが…
チップの文化が浸透するアメリカでも消費者は、いくら払うべきかという葛藤と常に闘っているようだ。ウォール・ストリート・ジャーナルは、「どの程度チップを払うべきかという道徳的な戸惑い」が存在すると指摘。そして昨今ではその混乱が、店員に対してだけでなく無人のセルフレジにも拡大したと述べている。
顧客は自分で商品をスキャンしたあと、「チップを支払いますか?」との画面表示を目にする。ある店舗の例では、およそ10ドル(約1400円)の会計に対し、1~3ドル(約140~420円)から選択する3つのボタンが大きく表示される。中間の選択肢である2ドルを選択した場合、1400円だった会計は約1700円に膨れる計算だ。
「No tip(チップなし)」のボタンや任意の額の入力ボタンも用意されているが、チップの支払いボタンよりも表示は小さい。
ファストフード、カフェにも広がる
導入はセルフレジにとどまらない。テーブルサービス形式以外の店舗、例えばファストフード店やカフェなどは従来、積極的にはチップを求めてこなかった。だが、こうした店舗においても、店員の目の前でチップ額を端末に入力する形式が広がっている。
これまでもカフェでのチップ習慣は、やや複雑だった。コーヒーなど店員にとって手のかからないものを買う場合、チップは別段不要とされる。一方、フォームミルクを泡立てて作るラテなど手の込んだドリンクでは、1ドル程度を渡すことが期待される。