記事は、これらは「ほんの数年前とは根本的に異なるチップ文化」であると指摘し、アメリカ社会に新たに生まれたストレスの要因だと見ている。

ちょっとした買い物の場面、例えばコンビニでガムを買うだけでも、チップを求められる。経済的に余裕のない未成年の客にまで同じ画面が表示されるため、店員としても気まずい思いをするケースがあるのだという。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は多くの消費者が、チップを「感情に訴える脅し(emotional blackmail)」になっていると伝えている。

無人レジに支払ったチップは誰のものになるのか

チップは本来、良いサービスを提供してくれたスタッフへの心付けだ。しかし、店のオーナーが懐に入れているのではないかとの疑念を抱く消費者も少なくないようだ。

首都ワシントンのある消費者は、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に対し、「(店側はすでに)セルフレジによって人件費を削減しています。では、チップを要求する理由は何でしょうか? そして、誰に渡っているのでしょうか?」と不信感を募らせる。

チップは低賃金を補う役割も担っている。米連邦法は最低賃金を時給7.25ドル(約1000円)と定めているが、月30ドル(約4200円)以上のチップを受け取る労働者は例外が適用され、時給2.13ドル(約300円)が最低ラインとなる。

連邦法はまた、チップは店側の取り分としてはならず、従業員に与えるよう定めている。スタッフが客から直接受け取る場合もあれば、チップジャーに寄せられたチップを同時間帯にシフトに入っていたスタッフのあいだで分け合うこともある。

しかし、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、セルフレジなどの機械に支払われたチップには、連邦法の規定が及ばないおそれがあると指摘。店側はチップを従業員に配分すると説明しているが、一部または全部を店側の取り分としても違法性を問えないおそれがあるという。

一杯のコーヒーと木製トレーの上に代金
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テイクアウト、キャッシュレス化で進んだ「チップ文化」の異変

店側はなぜ、あちこちでチップを請求し始めたのだろうか? 新型コロナ感染症のパンデミックを契機に、チップを取り巻く環境は大きく変化した。このことがひとつの要因となっている。

レストラン店内で食事をした場合、チップは最低でも15%、サービスが良ければ20%以上がマナーとされている。気前よくチップをはずむ客も多いようで、CNBCによると実際の支払額は平均25%ほどだという。

ところが、ドライブスルーやテイクアウトの広がりでチップを支払う客が減った。同記事によると、テイクアウトでは3人に2人はチップをまったく支払わず、払う客でも5~10%程度の額にとどまる。そのため店側は、会計端末で積極的にチップを請求し、失われた額を補いたい算段だ。