50代後半で発覚した夫の不倫。夫からの離婚の申し出に妻は拒否を続け、相手女性に500万円の慰謝料請求をした。会社に出向いて夫の上司に職場不倫への対処を求めたことで、夫は職場でも窮地に立たされることになった――。

※本稿は、鮎川潤『幸福な離婚 家庭裁判所の調停現場から』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

結婚指輪を外す女性
写真=iStock.com/PonyWang
※写真はイメージです

離婚を準備している妻

離婚はどのようなときに認められるのでしょうか。言うまでもなく結婚している夫婦が離婚しようと合意したときに離婚は可能です。現在の日本では、本人に加えて二名の証人の署名捺印がある離婚届を市町村役場や区役所に提出すればいいのです。

しかし、一方が離婚を望み他方が望まない場合や、離婚の条件が折り合わない場合はどうなるでしょうか。その場合は、家庭裁判所に夫婦関係(離婚)の調停を申し立てることになります。

本書では、若い10歳代で妊娠して結婚したケースをはじめとする20歳代の離婚のケースから、70代の高齢者の離婚までを検討しています。

本稿では、熟年の離婚について考察したいと思います。とりわけ30年以上結婚生活をともにし人生を一緒に歩んできた夫婦の離婚のケースを取り上げたいと思います。

もし二人三脚で400メートルを走るとして、陸上競技場のトラックの第四コーナーを曲がって、目の先に見えているゴールに入ろうとする直前で、パートナーが脚の紐をほどいてリタイアしてどこかへ行ってしまうようなものです。残されたほうは、予想もしなかったまさかの事態に呆然とした気持ちになってしまうに違いありません。

抜かりない女性、人生終盤の「道ならぬ恋」が目立つ男性

しかし、事情は男性と女性では大きく異なっているように思われます。女性の場合、とりわけ家族の主要な稼ぎ手が夫であり、妻がパートタイムなどで就労することがあったとしても、育児や家事を中心として生活してきた場合、離婚のタイミングを待っていたと推測されるケースが多々あります。子どもたちが成人して就職したり、その後結婚したりして家庭から巣立ったり、夫の定年退職――再雇用されてその会社に留まったり、関連企業へと移ったりする前の定年退職――まで、我慢を重ね、離婚を周到に準備している場合が多いと考えられます。

もうすぐ支給される退職金を含めて二人が形成した財産を分与することが遺漏いろうなく計算されています。妻は夫の給与が振り込まれる銀行口座を管理し、夫には月々に少額の小遣いを与えて生活させ、他方で自分のパート収入のほうは夫の目の届かないところで貯蓄したり、小遣いとして自由に使ったりということが行われていたりもします。もちろん夫の収入だけでは家計や子どもの教育費を賄えず、パート収入が子どもの教育費や習いごとや塾の費用などに使われるということもあります。

男性にもこうした準備をした例がないわけではありません。夫のほうから退職を前に離婚を切り出し、ローンが完済した家も、退職金の半額も妻に与えると言って離婚したケースも見てきています。しかし、男性の場合、そうした以前から計画された例は少なく、むしろ、人生の最終段階で道ならぬ恋の最後の花を咲かせようとするケースが目につくように思われます。