私にできて君にできないことはない

世の中には、「不可能だ」といわれていたことを突破し、奇跡を起こし、イノベーションを成し遂げた人々がたくさんいます。その人々はどうしてそれができたのでしょうか。

結論から先にいえば、成功するまで諦めずに繰り返し挑んだから。そして、なかなか成功しないことに対して言い訳しなかったからです。

以前、青色発光ダイオードを開発した天野浩先生と対談をしたことがあります。「どうして天野先生は青色発光ダイオードを開発できたのですか」という私の質問に天野先生は、「私は1500回、失敗しました。でも諦めませんでした。だから青色発光ダイオードを発明することができたのです」とおっしゃいました。

なかなかうまくいかなくても、夢の実現のために、諦めずに何度でも繰り返す。これがイノベーションには必要なのです。

たとえば、「成功率1%」というのは、1回チャレンジしたときの確率で、99%は失敗します。ところが2回目は、0.99×0.99=0.98となり、成功率は2%になります。これを繰り返していくと、100回目で成功率は64%、459回目には99%になります。

私はユーグレナ社の資金調達のために500社を回りましたが、501社目で資金援助してくれる会社に出合えました。

とにかく繰り返し努力すること。「試行回数×科学技術=イノベーション」なんです。

ところがほとんどの人はそこに至る前に諦めてしまう。だから成功にたどりつかないのです。

この話を皆さんにすると、「それは、天野先生や出雲さんだからできたことでしょ」「最先端の研究設備で実験したからできたんですよ」という人がいます。でも私は、団地の、ごくごく平凡な家に生まれた普通の子でした。天野先生も、「私が研究を行っていた名古屋大学は、特別に研究環境に恵まれているわけではありませんでした」とおっしゃっています。

漫画家の秋本治先生は本郷の卒業生、皆さんの先輩ですよね。私は秋本先生の『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の両さんのことも自分の師匠だと思っています。両さんは全201巻のマンガの中で、「○○がないからできない」「金持ちじゃないからできない」という言い訳を一度もしていないのです。

「うちの子にはとても無理です」という親の言葉が私は嫌いです。身近で、最も応援するべき親が、自分の子供の可能性を否定してしまってどうするんですか。

みんな、同じ人間です。37兆個の細胞があって、その全部に23セット46本の染色体がある。その設計図は99.9%の6乗まで同じです。私にできて君にできないことを、論理的に証明することは不可能なんです。

そして最後に。「1番になること」にこだわってください。

『プレジデントFamily2023夏号』(プレジデント社)
『プレジデントFamily2023夏号』(プレジデント社)

日本で一番高い山が富士山であることは誰もが知っています。でも、2番目に高い山が北岳であることを知っている人は富士山ほどいません。1番と2番では、知名度に圧倒的な差があります。知名度が上がれば上がるほど、応援してくれる人が増えるのです。

適切な科学と努力の繰り返し。この二つの掛け算で、誰もが「富士山」としての人生を送る可能性を秘めています。

今日ここにいる皆さんが、これからどの舞台で、どのフィールドで人生を送るのか、私にはわかりません。でも一度きりの人生です。ぜひ皆さんには、北岳じゃなくて富士山、1番の人生を送ってほしいと思います。