画期的な商品が生まれる仕掛け
【神谷】なぜそういう横の連携が可能かというと、花王では研究発表会というものが定期的に開かれていて、研究員や本社のスタッフは自由に参加することができるのです。そこで「この技術を基に、こんな商品をつくりたい」と事業部から研究員に声をかけることもありますし、「こんな技術はできませんか」と要望を伝えることもある。どちらのパターンもありますね。
モスブロックセラムの場合は、台湾で開かれた研究発表会を当時のインドネシアの花王の社長が見て、「この技術はインドネシアで使えるのではないか」と考えた。それでそのときインドネシアに駐在していた私に声がかかったのです。しかし、インドネシアは虫よけ製品として発売しようとすると、さまざまな法規制への対応が必要で数年かかる。調べていくと、同じく蚊による感染症が社会問題となっているタイで、商品化ができそうという糸口が見つかった。そこで、「タイでどうですか」と提案したら、私がタイに異動になりました。そこで仲川とその上司をタイに招待して、「話を聞かせてください」といったのが始まりです。
タイで発売するならタイの人々の生活の様子を知らなければなりません。そこで彼らはタイで一軒家を借りて蚊の生態を調べたりしていました。タイでは日本と違って、家の中で蚊に刺されることが多いんですよ。向こうは庭に水がめを置いて、蓮の花を浮かべたり、植木の水やりに使ったりする。蚊は水をはじく脚を持っていて、アメンボのように水の表面に立って産卵するので、その水で蚊が育ってそれに人間が刺されていく。
タイの人たちは寝る2時間くらい前に、寝室に殺虫剤を噴霧して、蚊を退治してから寝るんです。でも部屋には殺虫成分が充満しているからしばらくは入れない。寝るときようやく寝室に入るという人も多くいます。
ニーズはあるのに日本では売れない理由
――塗るだけで蚊が逃げていくなんて、すばらしい商品だと思うのですが、日本で発売する予定は?
【神谷】日本でも発売してほしいという声は多いのですが、もう少し時間がかかりそうです。国ごとに細かな規制があり、簡単ではありません。
――特に成分に関しては昔は何も入っていないのに入っているかのような粗悪品があったから、「こういう成分を何%以上必ず入れるように」と法律で定めた。いまは逆にそれが足かせになるということですね。