部下の「助け舟」でようやく事態を把握

実際は、東電RPは全面協力するための前提条件を挙げ、その前提条件の中身を関係自治体に諮っている最中だった。

ところが、川勝知事は「東京電力の了解が取れない」と、まるで“入り口”の段階で止まっているかのような虚偽の発言をしてしまった。

記者の追及に、知事と代わったリニア担当の渡邉光喜参事が「4月26日にJR東海から東電RPと協議を開始する前提条件の確認を求められた。現在、(事務局の県を通して)関係自治体と内容について調整している」と説明した。

川勝知事に代わって田代ダム案の進捗状況について説明する渡邉参事(右)(=静岡県庁)
筆者撮影
川勝知事に代わって田代ダム案の進捗状況について説明する渡邉参事(右)(=静岡県庁)

事務方との説明の食い違いに、記者が「知事が言っていたことが間違っていたことなのか」とただすと、川勝知事は「そうです。正確な情報をいま初めて知りました」と情けない回答して、驚かせた。さらにもう一度、「いま初めて知りました」と述べたのだ。

事務方が「調整中」と説明すると、川勝知事は「調整していることさえ知らなかった」と明かした。言うなれば、部下の渡邉参事が公の席で、トップの川勝知事の「間違い」を本人がいる前で暴露してしまったことになる。

静岡県庁組織のトップである川勝知事が現在の調整中の中身を知らないと言っているのに、翌14日、県は「田代ダム案は東電RPの水利権とは関係なし」とする通知をJR東海に送ったことになる。

そんなことは普通ありえない。そのような組織で本当に大丈夫なのか、と誰もが心配するだろう。

筆者は、2018年夏に始まった静岡県のリニア騒動の中で、川勝知事がこのようなみっともない姿をさらすのを初めて見た。

本稿では、川勝知事が徹底的に妨害してきた田代ダム案がまとまった理由、川勝知事を含めて静岡県の内部で何が起きているのかわかりやすく伝えたい。

「ただのJRの地域貢献」で田代ダム案を潰しにかかった

JR東海は昨年4月の県リニア専門部会で、川勝知事から求められた「工事期間中の全量戻し」の対策として、東電RPの内諾を得た上で田代ダム案を提案した。

その直後の会見で、川勝知事は「JR東海は関係のない水利権に首を突っ込んでいる。水利権の約束を破るのはアホなこと、乱暴なこと」などと強く反発した。

8月に行われた田代ダムの視察後でも、川勝知事は全国新幹線鉄道整備法に新幹線整備は「地域の振興に資すること」との条文があることを引き合いに出し、田代ダム案を「(あくまで)JR東海の地域貢献」と表現。「リニア工事中の全量戻しにはならない」と湧水の全量戻しの代替案にはならない認識を示した。その後の会見でも、何度も田代ダム案を否定する発言を行った。

このため、JR東海は県リニア専門部会で、田代ダム案が河川法の水利権に抵触しないことを詳しく説明した。

さらに国交省が、田代ダム案が水利権を規定する河川法に触れないことを政府見解として発表した。JR東海が何らかの「補償」を行うことが問題ないことも説明した。