権力に対する監視という意識はずっと持っていた
――内山監督はテレビマンユニオンの制作畑で「世界ふしぎ発見!」にまず就いて、最近ではNHKの「アナザーストーリー」も手掛けていますが、管義偉前首相に続いて安倍晋三元首相のドキュメンタリー映画制作ということで、そのキャリアから見ると一気に硬派テーマに挑んで来たというイメージです。どういう背景だったのでしょうか。
【内山】今回のことがあって、いろいろ思い出したんですが、大学に入って一応ジャーナリスト同好会というところにいたのです。真面目な人たちの中でガチガチにジャーナリズムを語ることに対して、テレというか、恥ずかしさがあって、むしろもう少し面白く伝える方法はないのかと、常に考えていました。彼らがやたらと上からものを書いているような気がしていたんですね。ただ権力に対する監視という意識はテレビの世界に入ってもずっと持っていたように思います。
以前2003年に「項羽と劉邦」を「世界ふしぎ発見!」でやったんですが、なぜこれをテーマにしたかというと、当時イラク戦争の直前だったんですよ。要するに、米国のブッシュ大統領が大量破壊兵器のないイラクに向けて大義なき戦を仕掛けていた。項羽と劉邦もつきつめると項羽の大義がない戦になっているって話をそちら側に話を寄せて構成したんです。
焚書坑儒をやるとか、血筋を断ってでも自分が皇帝になるとか、いわゆる項羽の戦の背景には私利私欲だけで何も大義がないじゃないか、だから劉邦が勝つというテーマにしたんです。大義なき戦は、必ず負けるということを、イラク戦争の前ぐらいに打ち立てて作りました。
そうしたら、放送が決まっていた日の直前に当時のテレビマンユニオンの社長だった人間から「これはオンエア日を変えてくれ」って言われたんです。あまりに今起きつつある現代の戦争の話に近い話をやっているので、いろいろなハレーションを起こしかねないということで放送日の延期を言われたんです。
「待って下さい。歴史の話をジャーナルとして取り上げちゃいけないんですか」と楯突いたんですけど、「とにかくうちの会社の基幹番組だから、頼むから番組を守らせてくれ」って言われて、泣く泣く変えたってことがあったんです。そして何週間か後に放送しました。