その間にスキャンダルや失政で内閣支持率が下落すれば、総裁選前に「岸田降ろし」が再燃する恐れは拭えない。解散の時期が早すぎるのである。岸田派関係者は「そもそも岸田首相は6月解散に前向きではなかった」と明かす。
とはいえ、「今なら勝てる」という自民党内の期待を黙殺して6月解散を見送れば、あとで「あの時に解散しておけばよかった」という不満が党内に充満し、岸田降ろしが再燃するかもしれない。「大忘年会騒動で6月解散論が下火になり、岸田首相は安心して解散を先送りできる。むしろホッとしている」(岸田派関係者)という側面もある。
「6月解散論」が沈静化したもう一つの理由
岸田首相が探る次の一手は「解散より人事」だろう。野党提出の内閣不信任案を粛々と否決して国会を閉じた後、今夏に内閣改造・自民党役員人事を断行して体制を一新し、内閣支持率が再上昇すればその勢いで9月解散・10月総選挙を狙うという筋書きだ。
岸田政権の主流派は、第2派閥の麻生派(麻生太郎副総裁)、第3派閥の茂木派(茂木敏充幹事長)、第4派閥の岸田派(岸田総裁)。反主流派は無派閥議員を束ねる菅前首相と二階派(二階俊博元幹事長)で、昨年夏に急逝した安倍晋三元首相の後継争いが激化する最大派閥・安倍派を引っ張りあっているのが、現在の自民党の権力構造である。安倍派会長レースの先頭を走る萩生田光一政調会長は菅氏と気脈を通じ、萩生田氏に対抗する世耕弘成参院幹事長は麻生氏に接近している。
大忘年会騒動とともに6月解散論を沈静化させたのは、衆院東京28区をめぐる自公対立だった。公明党は独自候補擁立を主張したが、自民党都連会長の萩生田氏は譲らず、公明党は「28区擁立を断念する代わりに東京では自民候補を推薦しない」と通告。マスコミは「連立解消の危機」と騒ぎ、選挙地盤の弱い自民若手を中心に「公明推薦を得られないかもしれない」との不安が広がって6月解散論がしぼむ一因になった。
公明党の強硬姿勢を後押ししたのは創価学会である。創価学会は岸田―麻生―茂木の主流派と縁が薄く、菅―二階の反主流派とのパイプが強い。さらに自民都連を率いる萩生田氏も菅氏と親密だ。岸田首相が6月解散を決行して勝利すれば長期政権が視野に入り、菅氏や二階氏の影響力は大幅に低下する。6月解散を阻止するために菅氏が創価学会や萩生田氏としめし合わせ、自公対立を演出したと私はみている。
夏の人事は、茂木幹事長の処遇が焦点
岸田首相が大忘年会騒動で批判を浴びる最中、菅氏は日韓議連会長としてソウルを訪問し、尹大統領と会談した。菅氏は6月2日、首相官邸を訪れて岸田首相に訪韓結果を報告したが、この場で岸田首相は菅氏へ自公関係の修復へ協力を求めたとの見方が永田町に広がっている。