“節約母”が“散財母”に

2015年2月。要介護1と認定された母親(当時72歳)は、週2でデイケアに通い始めた。その頃はまだ、実家のお金は母親が管理していた。

ところが2016年のある日、小窪さんが実家に行くと、両親が大喧嘩をしている。父親が温水器の買い換えのため、まとまったお金を用意するよう伝えたところ、母親がお金を用意できず、喧嘩になったという。さらに、実家に公共料金の督促状が届き、それを見つけた父親が、「預金口座から引き落とされるはずなのに、なんでこんなものが届くのか?」と母親を問い詰めていた。

すると母親は逆上。「そんなことを言うなら、もう私は知りません! 全部自分でやってください!」と言い残し、父親名義の通帳と印鑑を机に投げつけて自分の部屋に入ると、大きな音を立てて扉を閉めてしまった。

2冊の預金通帳
写真=iStock.com/takasuu
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父親は通帳を開くと、絶句。定期預金は少し残っていたが、16年前に入っていたはずの父親の退職金がほとんど無くなっていた。

「私が子どもの頃は、あまり裕福ではなかったので、一生懸命母が節約をしていました。それなのに釣りが趣味の父は、考えなしに高価な釣竿を買ってきたりして、よく夫婦喧嘩をしていました。母は私たち姉妹が結婚した後から働き始め、50代終わり頃からは、父と同じ会社で働いていましたが、今思うと、その頃から休日には必ず外出し、服や高価な物を大量に買い、しょっちゅう旅行に行っていました。私は実家のお金にはノータッチだったので、『2人で働いて、父の退職金も入って、裕福になったのかな……』と思っていました」

すぐに小窪さんは母親と話をして、母親の口座を調べた。母親は、国民年金や企業年金など、毎月ではなく2カ月~半年に1回入金されるお金を毎月の給料と勘違いしたのか、ほぼ1カ月で使い切ってしまっていた。お金が足りなくなると、貯金を切り崩していたようだ。

小窪さんは母親に、「このままではお金がなくなってしまう」ということを伝え、母親にわかるように、「入ってくるお金」「引き落としのお金」「1カ月に使えるお金」を紙に書いて説明。そして、通帳とカードを預かり、毎月小窪さんが1カ月分のお金をおろして持参することになった。

「母は父に対してプライドがあるため、父とは別に、母と私だけで決めました。もちろん初めは母は不本意そうでした。母はすぐに忘れてしまうので、母が大事に隠しているお金ボックスに1カ月に使えるお金の金額を書いた紙を貼り、そこに私が毎月持参することも書きました。母を安心させるために、電話の度に、『○○日にお金を持っていくからね』と伝えました」

その後、おそらく物忘れがひどくなってから高額な保険に入っていたことが判明。しかし解約しようにも母親は印鑑がどこにあるかわからず、小窪さんが探すと10個ぐらい印鑑が出てきた。

もしかしたら母親は、50代の終わり頃にはすでに認知症を発症していたのかもしれない。両親のお金のことまで小窪さんは把握しておらず、父親も家計のことは母親に任せきりだったため、発覚が遅れてしまったようだ。