物忘れ外来と甲状腺専門病院受診

嫌な予感は的中した。1カ月後、当時病院や図書館でボランティアをしていた母親は、図書館ボランティアでミスが増えていた。

心配した小窪さんが、「お母さんくらいの歳の人は、みんな安心のために物忘れの検査を受けているよ」と言うと、「ボランティアで行っている病院にも検査できるところがあることは知っているから、自分で予約する」と言うので任せた。

しかし、念のため小窪さんが確認すると、母親は物忘れ外来ではなく、脳外科の予約をしていたことが判明。予約を取り直した。

物忘れ外来受診の日、小窪さんは通院に同行。さまざまな検査を受けたところ、血液中のカルシウム値が高く、副甲状腺の1つが腫れていることが分かる。甲状腺疾患でも認知症のような症状が出るとのことで、物忘れの原因が認知症なのか副甲状腺異常なのかを調べるために、甲状腺専門病院を受診することに。

物忘れ外来の検査結果は、脳の梗塞や萎縮はないものの、記憶に関して少し低下があり、直後の質問の正答率は平均。30分後の質問の正答率は平均よりやや低い結果だったため、服薬無しで様子を見ることになった。

さらに1カ月たち、甲状腺専門病院を受診。結果、大きな異常はないが、カルシウム値が高く、副甲状腺の腫れがあるため、3カ月に1回の通院が決まる。

甲状腺の解剖図イラスト
写真=iStock.com/magicmine
※写真はイメージです

それから2年後の2014年7月。71歳になった母親の認知症の進行を疑い、認知症専門病院を受診。検査を受けると、前頭葉の血流低下と、脳に色の変化がみとめられ、アルツハイマー型認知症の初期かグレーゾーンとの診断。

現在は、健常者と認知症の中間にあたるグレーゾーンの段階を、「軽度認知障害(以下、MCI)」という。MCIは、認知機能である「記憶」「決定」「理由づけ」「実行」のうちの一部に問題が生じるものの、症状の程度が軽く、認知症までは進行していない状態だ。貼るタイプの薬の少量使用を開始する。

12月。母親は外出時にワインを飲み、どこかで転倒。しかし本人の記憶がなく、父親は別室ですでに就寝していたため気付かず、翌朝、父親が母親の額に大きな傷があることに驚いて発覚。62歳の時に持病のC型肝炎が悪化して退職した父親は、数年間の治療を経て肝炎は完治していたが、薬の副作用でメンタルが不安定になることがあり、時々訪問看護師を依頼していた。その日はちょうど訪問看護師を依頼してあったため、傷の手当をしてもらうことができた。

以降も母親は、保険証や鍵の紛失、物忘れ、過食などが続き、医師から進行予防のため、デイサービスの利用を勧められ、介護保険新規申請を依頼。

「母には、医師の勧めであることや、進行予防に役立つことを伝え、母も了解の上で申請を行い、調査を受けましたが、本人の中では、『なぜ私が?』という不満は残っていたようです。デイサービスへ行くようになっても、初めは何度も一人でケアプランセンター(居宅介護支援事業所)へ行き、担当のケアマネさんに文句を言っていましたし、日記にも悪口がたくさん書かれていました」

2015年1月。要介護1と認定された。