ベテラン俳優になるほど自分の身体についてよく理解している
若いときと同じ身体づくりの目標をもつことはできるが、当然、方法論は変わってくるし、達成するには時間もかかる。『カジノ・ロワイヤル』のためのトレーニングには約7カ月かかったが、クレイグの出演する007シリーズ2作目となる『慰めの報酬』ではもう少しかかり、約9カ月だった。『スカイフォール』のためにはちょうど1年弱、『スペクター』ではもっとかかり、『ノー・タイム・トゥ・ダイ』ではさらに長かった。
50代で、30代のときとまったく同じようにトレーニングして回復できるとはかぎらない。年齢に伴い身体が変わる事実は、どう考えても完全には無視できない。だが、昔より少し賢くなって、自分の身体についての理解が深まり、自分のモチベーションを高めるものとそうでないものに自覚的になることはできる。
私はあまり若くはない俳優をトレーニングするのが好きだ。撮影現場に入るまでに、彼らの身体をしっかりと仕上がった状態にするのはやりがいがある。たとえば、インディ・ジョーンズ・シリーズの5作目に出演するハリソン・フォードのための計画を立てたとき、役づくりの肝となる鞭をぴしっと打ち鳴らす動きができるようにしなければならなかった。
撮影時、ハリソンは70代後半だったが、身体を使ったシーンもできるだけ自分で演じたがっていた。私の計画によって、彼は必要としていた、なめらかでしなやかな動きを身につけていた。
トレーニングを楽しいと思えることが重要になる
若いころは、どれだけの重量を持ち上げられるか、どれだけ速く走れるか、自分の体重がどれくらいかを基準にしてトレーニングメニューを決めることが多い。年をとるにつれて、自分の進歩のはかり方が少し変わり、どう感じるか、どんな結果になるかを気にするようになる。
さらに年を重ねると、トレーニングを楽しいと思えることが重要になってくる。それこそが最も大切だ。気分がよくなることをしよう。年齢によって、バランスは変わる。年齢が上がると、健康を維持し、元気で柔軟性があることが大事になる。
たとえば、レイフ・ファインズだ。彼は並はずれてたくましい(あなたが想像するよりはるかに屈強だ)。私は、007シリーズのMの役、『タイタンの逆襲』、いくつもの演劇作品のためにファインズのトレーニングを行ってきた。ファインズはしっかり取り組み、メニュー(どれぐらいの重さでデッドリフトやベンチプレスができるか)に興味があると同時に、年齢にふさわしいものにしようとした(現在のメニューが25歳のときと同じはずがない)。
ファインズは映画のためにすばらしい身体をつくり、姿勢がよくなりたい、スーツを着たときの外見と所作をよくしたい、といつも洩らしていたが、そのおかげで、プライベートな時間も楽しめるようになった(彼はかなりの食通だ)と私は思う。