「思うがままに書きなさい」という作文指導がいけない

だからこそ小学生のころから、文章力の基礎をかためる作文を、しっかりやる必要があるのだ。そう考えた前田さんは、子供向けのワークショップを開いた。

会場にやってきたのは、幼稚園児から小学校低学年までの子供たちだ。最初、野生動物の生態を紹介するビデオを見せた。それが終わると、一番気に入った動物や場面を絵に描かせる。たいていの子が好きで、取り組みやすいお絵描きから、まずは作文へ導こうというのだ。

次に「どんな色だった?」と聞いて、もう一度ビデオを見せる。今度は答えを文章で書かせる。次に「動物たちはどんな風に遊んでいた」などと質問して、再びビデオに戻る。子供たちは質問に答えようと、それまで以上に熱心にビデオを見るようになる。

「漫然と見るのではなく、観察させることが大切。具体的な質問で観察への意識づけをするのです」

4回ビデオを見せた。ワークシートに書かれた言葉が十分になったところで、それらをもとに文章を仕上げる。これで作文の完成。

学校の授業では、教師が原稿用紙を与えて、後は子供が書き上げるのを待つだけ、という場合が多い。いきなり完成原稿を書かせようとするハードルの高い方法だ。これだと子供は萎縮してなかなか書けないだろうし、作文嫌いな子も出てくるだろう。

藤原智美さん
藤原智美さん(撮影=萩原美寛、『プレジデントFamily2023春号』より)

「『思うがままに書きなさい』という作文指導が、逆に書けなくしているのではないか」と、前田さんも授業の進め方を疑問視する。

むしろ先を急がず、計算された手順を踏むことで、多くの子供は、うまく書けるようになっていくのだという。

その手順の基礎となるのは、新聞記事の基本形である5W1Hだ。これを子供向けに少し改良して、「いつだろう、どこだろう、だれだろう、何を、どうして、どうなった」という質問を、教える側が用意する。

ビデオなどの観察する素材を見せた後、「それはなんでだろう」と質問を繰り返して、答えを書かせる方法だ。質問と答えのキャッチボール。これなら、子供も書きやすいはずだ。