「が」という助詞を使うのが正しい理由

同書によると、「が」の前には知らないこと=未知情報が置かれるという。反対に「は」の前には、知っていること=既知情報が入るのだ。少女にとって、将来の恋人は未知情報だから、この歌では「が」という助詞を使うのが正しい、ということになる。思わず膝を打った。何という明解さだ!

著者の前田安正さんは、朝日新聞で長年にわたり校閲を担当してきた言葉のプロフェッショナルだ。

前田安正さん
前田安正さん(撮影=萩原美寛、『プレジデントFamily2023春号』より)

校閲の仕事は間違った言葉や文字に赤字を入れるだけではない。記者や作家、ひいては読者に対して、訂正の根拠をきちんと説明できなければならない。

こうした厳しい姿勢で一字一句、丹念に検討を重ねていくうちに培われた作者の文章術が、この本にはいっぱいつまっている。「就活のエントリーシートの作成に悩む学生や、ビジネス文章に不慣れな社会人1年生を念頭に、相手に伝わる文章術を書いた」というが、実際には30代のビジネスパーソンにも多く読まれて、ロングセラーとなっている。

会社の書類づくりで鍛えられているはずの30代も、文章力には不安を感じているのだろうか。

「転職、起業しようというとき、自分のプロフィールをうまく書けないという人が、ことのほか多かったのです。つまりビジネス上の決まりきった定型文ではなく、自分の言葉で、自分を表現する文章を書くことができないのです」

書く力が問われるのは、受験や学校の授業だけではない。ことに最近は就活、転職、起業と、あらゆる場面で、自分のことを自分の言葉でアピールするための文章力が、求められている。

前田さんによれば、社会人も「次のステップに移るときの道具として、文章力が必要不可欠になっている」時代だという。