法改正前から存在する基準未満の建造物は「既存不適格」と呼ばれる扱いになる。条例内容や要件は地方自治体によって異なるが、既存不適格の擁壁は、たとえ見た目では老朽化しておらず擁壁としての役割を果たしているものでも、法的には「がけ」と同等の扱いとなっている擁壁もある。
既存不適格だからと直ちに造り直しを命じられるわけではないが、今あらためてその土地に建造物を新築する場合は、もちろん擁壁も、現行の建築基準法が定める工法や構造を要求される。
つまり、古い基準で造られた擁壁にそのまま家屋を新築しようとしても、建築確認申請が通らないのである。
もはや値下げの余地が残されていない
そうなると、古い擁壁を撤去し、現行の基準を満たした新しい擁壁に造り直して初めて、その土地は宅地として利用できることになる。
だが、利便性が高く、更地が希少な都市部ならともかく、千葉の限界分譲地は、果たしてそこまで費用を投じる価値のあるものなのか。これはかなり微妙であると言わざるをえない。
たしかに不動産は二つと同じものはなく、見出す価値も人それぞれである。他ならぬ筆者自身、一般的な不動産の評価基準に照らし合わせれば、およそ話にもならない悪条件の分譲地を、わざわざ選んで暮らしている。擁壁上の宅地を好むこと自体を疑問視することはできない。
しかし千葉の限界分譲地は、すでに述べたとおり常に過剰供給の状態にある。道路との高低差が一切ない平坦な分譲地でも、売主の考え方次第で、たやすく底値で購入できてしまう市場である。
すぐに利用可能な宅地が数十万円で売られている市場において、まず宅地としての最低限の要件を満たすために数百万円の費用を要するのでは、商品として勝ち目などあろうはずもない。
一般的な住宅市場においても、今は擁壁の宅地は平坦地と比較して価格が落ちるのが通例だが、千葉の限界分譲地の価格相場には、その下げ幅がもう残されていないのだ。
車を駐車できない駐車場
高低差が2m未満の擁壁であれば建築基準法の定める要件を満たす必要はなく、新築時に擁壁の構造や強度を問われることはないが、古い擁壁は法令上の制限の他にも問題を抱えていることがある。
特に目立つのが駐車スペースの不足だ。
これは限界分譲地だけでなく、古い郊外住宅地全般で起きている問題でもある。70年代、80年代ころに造成された擁壁の宅地は、駐車スペースを1台分しか確保していないものが多い。