限界分譲地の売地の多くは、所有者の希望価格に沿って広告が出されているものだと思うが、つまるところ、分譲当初の価格と現在の実勢相場があまりに乖離しているために、ほとんどの場合、所有者(売主)がどこまで妥協できるか、その考え方次第で価格が決まる市場であると言っても過言ではないのだ。
ほとんどの所有者は具体的な利活用方法を持ち合わせていないので、相対的に見て好条件の区画であろうと、所有者自身がその土地を捨て値で手放す決断を下せば、それは底値で市場に放出されるのである。
こうなると買い手側としては、積極的に条件の悪い土地を選ぶ理由がない。活用されるのは条件の良い土地ばかりで、条件の悪い土地はどんなに売値を落としても買い手がつかず、0円でようやく手放すことができれば御の字、というほどの二極化が起きる。
まともな売値もつかず、手放すための労力ばかり要する土地は、やがて市場に出ることもなくなり、管理もされず放棄されていく。限界分譲地には今なお大量の売地が残され、広告が出され続けているが、その一方で、もはや広告にすら出てこない「放棄区画」もまた次第に増加しつつある。
「擁壁のある土地」が大量に余っている
では、実際に「放棄区画」になりうる土地には、どんな共通点があるのか。筆者が調査対象にしている千葉県北東部の分譲地に限って言えば、もう答えが出ていると言っていい。
それは「擁壁のある土地」である。
擁壁とは、住宅地においては、傾斜地上に開発されたひな壇状の造成地の土砂の崩落を防ぐために設置される、コンクリート製の構造物を指す。大規模なニュータウン開発が盛んだった1960~70年代、丘陵地や山腹に開発された分譲住宅地で多く採用されている。
地形の制約で、どうしても擁壁を設置しなくてはならなかった宅地は多いが、中には、擁壁など設置する必要があると思えないような平坦地でも、わざわざ盛り土をし、擁壁が造られている住宅地を見かけることもある。
擁壁の宅地は家屋が大きく見えるので好まれたとも言われており、石垣や城塞を模したようにも見える擁壁が、マイホームと並び、一種のステータスとして機能した時代もあったのかもしれない。
しかし擁壁は、その建造に多額の費用を要する構造物である。費用は高さや建築面積によるが、一般的な広さの宅地の場合でも、道路との高低差が1メートルにも及べば、数十万単位での費用を要する。
擁壁ではなく、がけと見なされるケースも
また擁壁は他の外構工事と異なり、単に施主の好みで設置すればよいというものではなく、建築基準法において設置義務が定められている(壁高2m以上の高低差のある土地。宅地造成等規制法区域内においては1m以上の盛り土)。
その建造方法や材料も同法の規定に沿ったものにせねばならず、建造にあたっては家屋同様に建築確認申請を行う必要がある。
ところが、1970年代ころまでに建造された擁壁の中には、現行の建築基準法が定める構造要件を満たしていないものが少なからずある。