これらはいずれもずさんな工事の結末であり、立地条件を問わずどこでも起こりうることではあるが、一般論として考えて、実需に基づいて開発され、生活に必要な設備を一通り備えた標準的な住宅分譲地と、ほとんど投機目的のみで乱開発されたような、ろくにインフラも整っていない分譲地では、後者のほうが手抜き工事がまかり通る市場であったことは想像に難くない。
実際千葉県の限界分譲地においては、質の低い舗装や造成工事を見かけることは頻繁にある。そもそもまともな舗装すら行われていない分譲地もある。
「擁壁物件」には手を出さないほうがいい
限界分譲地における擁壁の問題について指摘するのは、正直言って後ろめたさがある。
今でも区画ごとに所有者がいるはずだが、すでに多くの擁壁上の宅地が放棄され、荒廃して雑木林と化している。その現状を語るのは簡単だが、解決策として提言できることがなにもないからだ。
現行法令に適合していない擁壁はもはやどうにもならないし、工事をやり直すほどの価値も、地価が回復する見込みもまったくない。
この擁壁の問題は、筆者が以前の記事で指摘した、家屋の解体費用が更地の価格を上回っていて、廃墟と化した建物の始末が困難になっている事例に類似している。結局は、地価と、建築工事にかかわる人件費や材料費のバランスが崩れた際に生じる必然的な現象なのである。
地価の上昇が見込めるエリアで不動産を購入できれば話は簡単だが、今日の日本では、誰もが地価上昇エリアの物件をたやすく手に入れられる状況ではないだろう。
膨大な数の放棄区画から得られる教訓として言えるのは、工事費用に見合った資産となりうるかどうかの見極めが、今後はよりシビアになっていく、ということかもしれない。
今は遠い僻地の限界分譲地で起きているこの現象は、さらに人口減が進むこの先、次第に都市周縁の郊外住宅地にも、静かに侵食していく恐れがあるからだ。