60余年の歴史を持つドイツの原発はゼロに

4月15日22時、ドイツで最後に残った3基の原子力発電所が停止モードに切り替えられた。これにより原子炉の温度が徐々に下がり、最終的に発電機が送電網から切り離されたのが、法律で定められたリミットであった零時の少し前。こうして、何が何でも原発をドイツの地から駆逐したかった緑の党の宿願がついに叶い、60余年続いたドイツの原発の歴史に(一応の)終止符が打たれた。

反原発派によれば、この日は「歴史的な日」。ただし、ドイツの脱原発は政策ではなく、すでに宗教である。

その5日前の10日、ハーベック経済・気候保護相(緑の党)はわざわざ、ドイツのエネルギー供給は保障されていると発信した。「この困難な冬もわが国のエネルギー供給は保証されたし、これからも保証されている」と。

しかし、この冬にエネルギー供給が破綻しなかったのは、まれに見る暖冬でガスの消費が極力抑えられたせいだ。しかも昨年7月まではロシアのガスも入ってきていたし、3基の原発も動いていた。ただ、それらがなくなった今、誰がどう考えても、この冬のエネルギーは安泰ではない。つまり、ハーベック氏の保証は空手形で、「“グリーン教”を何も言わずに信じてほしい」ということだ。ただ、グリーン教の信者は、今では急激に減っている。

ドイツのショルツ首相
写真=dpa/時事通信フォト
2023年4月18日、ドイツのショルツ首相

産業国ドイツに与えた打撃は計り知れない

かつてドイツでは17基の高性能の原発が、何の支障もなく稼働していた。ところが福島第1原発の事故の後、当時のメルケル首相がそのうちの比較的古かった8基を止めてしまい、以後12年かけて、残り9基の原発を、着々と、経済も物理も数学も、最近では倫理まで無視して破壊していったのがドイツ政府だ。こうして失われた実質価値は17基分で3000億ユーロ(約40兆円強)とも言われる。

これが産業国ドイツにじわじわと与えた打撃は計り知れず、今では取り返しがつかないといっても過言ではない。日本経済もここ20年ほとんど成長していないので他国のことは言えないが、ドイツ経済も成長が極めて鈍い。

これまで安いロシアガスがあったから、ドイツの一人勝ちなどと言われていたが、今ではガスどころか原子力もなくなり、今後のエネルギー調達では、供給も価格も不安要素だけが残っている。現在、パイプラインで入ってくるガスはノルウェー産だけだが、これはかなり割高だ。その他はLNGなので、さらに高い。しかも、ドイツはこれまで安いロシアガスがあったため、LNGのターミナルもなかった。12月に突貫工事で最初の1基ができたが、これで足りるはずもない。

そこで、駆逐するはずだった石炭火力や、すでに止まっていた褐炭火力まで総出で動かしている。CO2がどんどん増えるのもお構いなしだ。