自動車企業、化学企業などが“脱出”を検討

昨年の冬、ドイツの稼ぎ頭であるバーデン=ヴュルテンベルク州では(まだ原発が動いていたにもかかわらず)、何度か赤信号が灯り、一般家庭にまで節電要請が出た。電力の不安定は産業にとっては致命傷だ。数秒でも停電すれば、精密機械工業や電子産業はもとより、繊維工業も印刷工業も重篤な被害を受ける。

しかも、そうでなくても高かったドイツの産業用電気の料金は、昨年後半さらに跳ね上がり、日本の1.5倍、フランスのほぼ2倍、米国・カナダ・韓国の3倍、中国・トルコの4.4倍に達した。

それどころか、脱原発の完遂とほぼ同時に、ドイツ最大の電力会社E.onがさらに値上げを宣言。7月1日より、これまでの電気代30.85ユーロセント/kWhを、49.44ユーロセント/kWhに引き上げるというから6割の値上げだ。理由は原価の高騰。もっとも他の電力会社では、すでにそれよりも高いところも多い。

いずれにせよ、これで産業の競争力が保てるはずもなく、当然の帰結として、ドイツの企業は必死で脱出を始めている。しかも、体力のある企業、つまり、これまでドイツの経済を支えてきた自動車、化学など重要な基幹産業が次々にドイツを後にすることを検討している。行き先は中国が多い。どのみち作った製品は中国に輸出するのだから、現地で作るのが一番という判断だ。

大企業「BASF」は中国工場に1.5兆円規模を投資

世界一の化学コンツェルンBASFは、ドイツの本拠地ルードヴィクスハーフェンの工場を縮小し、中国に100億ユーロ(1兆4800億円)を投資してプラスティック工場を作っている。これまでドイツ企業が中国で行った最大規模の投資だそうだ。ルードヴィクスハーフェンの工場群で1年間に消費するガスの量は、スイスの1年分の消費量に匹敵するというから、逃げ出すのも無理はない。ドイツの代表的な企業が、完全にドイツに見切りをつけ始めた感がある。

大手一流紙Die Zeitは、「エネルギー高騰、記録的なインフレ、世界中で停滞している景気によりドイツの危機は続く」と書く。これで関連企業が大企業の後を追えば、ドイツは空洞化し、失業者があふれる。出ていけない企業は潰れる可能性が高い。しかし、ドイツ政府はそれを深刻なことと受け止めているのか、いないのか、常に気休めしか言わない。

脱原発の完遂した15日、緑の党の共同党首の一人であるラング氏は、「ようやく再エネの時代が始まる!」と喜びのツイートを放った。ちなみに、今回減った3基の原発分をカバーするには、風車なら1万基が必要になるという。それどころかハーベック氏のかねてからの計画では、現在、陸と海で3万基近くある風車をさらに増やし、国土の2%を風車の森にするつもりだ。そのため、最近滞っている風車への投資を促す補助金も再び引き上げるという。これも、さらに電気代を押し上げる要素になるだろう。