なぜ、ここまで突き進んでしまったのか?

一方、緑の党が州政権に参加している州では、過去に止めた原発の冷却塔を次々と爆破し、絶対に再稼働できないようにしている(2020年5月・フィリップスブルク原発、2021年10月・ハム原発、2023年2月・ビブリス原発)。爆破の映像は、緑の党の破壊のエネルギーと、科学に対する忌避を如実に示しており、どれも実に衝撃的だ。

いずれにせよ、彼らは今後も原発を破壊し、ドイツ産業の息の根を止めるように努力するだろう。国は衰亡し、当然、国民は貧しくなる。これこそ国民に対する裏切りではないか。

それにしても、多くの電力関係者や一部の政治家が抗議し、また、経済学者やジャーナリストらが何年ものあいだ懸命に修正を呼びかけていたのにもかかわらず、この無謀すぎるエネルギー転換計画が、そのまま進んでしまったのはなぜなのか?

それは端的に言うなら、この「エネルギー転換」と「脱原発」の計画には、ドイツのすべての主要政党が積極的に関与してきたからだ。脱原発の父は社民党のシュレーダー元首相で、母はCDU(キリスト教民主同盟)のメルケル元首相だが、その周りに緑の党と自民党がくっついている。つまりどの党も、修正すれば失敗をすべて押し付けられることはわかりきっていたので、結局、最後まで言い出せず、ここまできた。不毛すぎる話だ。

原発擁護は口に出すことさえタブーだったが…

さらに、もう一つの理由はメディア。国民が緑の党、および反原発団体の主張をここまで鵜呑みにしてしまったのは、主要メディアがそれしか報道しなかったからに他ならない。ドイツ国民は、自分たちの報道機関は中国やイランとは違い、まずまず信用できると思っている。しかし実際には、公営テレビや主要紙の報道は完璧に緑の党系で、こと原発に関しては、長年、偏向報道が組織的に行われてきた。

異論は葬られ、原発擁護をするのは、自然や安全を無視した、お金と物質に目のくらんだ人間か、あるいは極右だと思わせる報道が横行するうちに、ドイツ社会では原発擁護は口に出すことさえタブーとなった。ただ、現在、興味深いことに、風見鶏のメディアが方向転換を図っているようで、一辺倒の世論に風穴が開く可能性も出始めている。

なお、驚いたのは日本でなされている一部の報道。例えば、日本経済新聞に載っていたある教授のコメントが、一部始終ピント外れだったが、中でも「すでに電力消費の5割近くを再エネで賄い、2030年までにその比率を8割に引き上げるドイツにとって、原発がもはや電源として重要性を失っていたという事情も大きい。ドイツは対仏をはじめ、隣国ほぼすべてに対して電力の輸出超過国だ」のくだりは、これまで説明してきたドイツの状況を見ればあまりにもミスリードであることがわかるだろう。