筋タンパク質合成を上昇させる成分を発見
筆者は2014年度から2018年度まで、内閣府が府省連携による分野横断的な取組を推進する目的で開始した戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の第1期でプロジェクトチームを組み、次世代農林水産業創造技術に関する研究を行いました。
次世代農林水産業創造技術推進委員会のプロジェクトディレクターは北海道大学大学院農学研究院・野口伸教授が務められ、私たちが所属するサブグループのディレクターは東京大学名誉教授の阿部啓子先生が務められました。
このサブグループの中の一つである「機能性農林水産物・食品による身体ロコモーション機能維持に着目した科学的エビデンスの獲得及び次世代機能性農林水産物・食品の開発」という課題のグループの代表を私が務め、十数カ所の大学、研究所に所属する研究者と研究チームを形成し、食品企業とも共同研究を進めて食品の開発・社会実装を行いました。
私たちグループは企業との共同研究で、オリーブの搾りかすに含まれる主要なトリテルペンであるマスリン酸の機能の解析を行いました。シャーレ上で培養した骨格筋細胞あるいはマウスへの投与実験で、骨格筋細胞内で筋タンパク質合成が上昇することを実証しました。
運動効果を増強させる機能を確認
また兵庫県立大学・永井成美教授の行ったヒトへの投与実験では、大変興味深い結果が得られています。
地域在住の高齢者に中強度のレジスタンス運動(弾性バンドトレーニング、スクワットなど)を行っていただき、朝食後に12週間、オリーブ果実エキスゼリーを摂取していただいたところ、オリーブ果実エキスを含まないゼリーを摂取したプラセボ群との比較で体幹、上腕、左腕の筋量がいずれも有意に上昇していました。
ここで大事なのは、運動との組み合わせで効果が得られているということで、マスリン酸は運動の効果をより増強させるという効果が確かめられています。このゼリーは現在、機能性表示食品として市販されています。
一方、持久力向上を目指した機能性食品としては、すでに市場に出回っているカテキンを豊富に含む飲料などを挙げることができます。フラボノイド類、レスベラトロール、ヌートカトンなどもAMPキナーゼを活性化し、持久力向上を導く機能性食品の商品化が期待されます。
これら運動の効能を模倣した作用を発揮する食品成分(リモノイド類、レスベラトロール、カテキンなど)を含む製品を私たちは「運動機能性食品」と命名しました。今後は信頼度の高い科学的エビデンスを明確に提示し、その実効性について信用を高めることが何より大事となります。