日本経済にはどんな課題があるのか。嘉悦大学教授で経済学者の髙橋洋一さんは「日本経済はGDPで見ると世界第3位だが、過去30年でほとんど成長していない。経済が成長しなければ、仕事に就けず生活に困る人の数が増えてしまう」という――。

※本稿は、髙橋洋一(監修)『新聞・テレビ・ネットではわからない日本経済について髙橋洋一先生に聞いてみた』(Gakken)の一部を再編集したものです。

東京・新宿で営業時間後に急いで帰宅する通勤者。
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規模の数字そのものより、前年比の成長率を見るべき

「日本はこれ以上経済成長を目指す必要はない」「経済成長よりずっと大切なことがある」という人もいます。しかし、経済成長を示す指標・GDPを各国と比較してみると、日本はこのままではいけないという理由がはっきりと見えてきます。

その国の経済状況が今、どうなっているのかを見る指標としてもっともよく使われるのが、国内総生産(GDP)。「日本のGDPは米中に次ぎ、世界第3位」です。これだけ聞くと、日本は世界有数の経済大国のように見えますが、はたして本当に経済大国といえるのでしょうか?

日本のGDPは、高度経済成長期の1968年に西ドイツを抜き、米国に次ぐ2位となりました。しかし、2010年に経済台頭が著しい中国に抜かれて3位になった経緯があります。さらに、早ければ、2023年にも、ドイツに抜かれて4位に転落するという可能性も出てきています。

しかし、GDPの順位自体は、実はあまり意味はありません。GDP自体は経済の規模を表す指標ですが、この指標を見るときは、規模の数字そのものより、前年比の成長率を見ていきます。つまり、経済とは成長してこそ、価値があるのです。政府も日銀も、経済政策を行う限り、成長を目指しています。はたして、日本の経済は成長しているのでしょうか?

まずは、GDPという指標を通して、経済の何がわかるのかを見ていきましょう。

「オークンの法則」を理解すれば経済成長の大切さがわかる

経済について議論していると、「日本の場合、経済成長はもう十分じゃないか、国は分配に力を入れるべきだ」「経済成長よりも大事にすべきことがある」といった主張をよくぶつけられます。

たしかに、経済問題のほかにも環境問題などの重要な課題はありますし、社会全体に経済利益が行き渡るように国が努めることも必要です。

しかし、「そのためなら経済成長を止めてもいい」と主張するのならナンセンスだとしか言いようがありません。これからみなさんに日本経済についてお話しするにあたり、まずは経済学の観点から、このよくある誤解を正しておきましょう。

では、なぜ国は経済成長を目指すべきなのでしょうか。その答えは、代表的な経済理論の一つ、「オークンの法則」を理解すれば簡単にわかります。

オークンの法則とは、「実質GDPの前年比成長率」が上がると完全失業率も改善するという法則のことです(図表1参照)。この法則のことはひとまず、「経済成長率が上がると失業率が抑えられる」という法則だと理解しておいてください。実際に図表1のグラフを見ると、経済成長率が高かった年ほど失業率の伸びが抑えられていることがわかります。

つまり、「経済成長を続ける国こそが、仕事に就けず生活に困る人の数を抑えることができる」ということが統計的な傾向としてわかっているのです。