「経済安全保障」は実現できるか

国政選挙の前になると、多くの党は「経済成長をめざす」と言います。しかしその方法はというと、国債を発行して金をつくり、特定産業や特定団体にお金を投入するという話ばかり。

それだけでは成長は望めません。本来はライドシェアのような、民間企業の新しい活動を認めていくことが経済成長の原動力なのです。

今、日本では国家として半導体製造の工場をもつことが必要不可欠だという声が強くなっています。この点に関連して岸田政権でも「経済安全保障」という言葉が躍っています。

現在、世界第三位の台湾の半導体メーカーTSMC(台湾積体電路製造)に数千億円の補助金を出して、熊本に工場を誘致する話が進んでいます。

TSMCはそれに応えて2021年10月に日本国内で初めてとなる新工場の建設に着手し、24年の稼働開始をめざす方針を発表しました。

TSMCの半導体工場は、熊本県内にソニーグループと共同で建設され、画像センサー用半導体や車載用半導体などを生産する見通しだと報じられています。

多数のディスプレイ
写真=iStock.com/Bim
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大阪府はシャープに数百億円の補助金を出してどうなったか

TSMCは、熾烈しれつ極まりない国際ビジネスの環境で先頭を走っている企業ですから、工場を稼働するまでの間、そして稼働したあとも、日本でビジネスを行うことが中長期的に有利なのかどうかをシビアに判断していくに違いありません。

日本社会が人材の面でも、雇用の面でも、規制の面でも、とにかくビジネスがやりにくいとなれば、あっという間に去っていくか、日本にとどまるためのさらなる要求をしてくるでしょう。

生き馬の目を抜くがごとくの世界でやっているTSMCが、日本政府の言いなりになって半導体を日本に優先供給し、日本の半導体技術を発展させてくれるなんてことがあり得るのか、僕ははなはだ疑問です。

そもそも半導体の国際ビジネス情勢が将来どうなるかなど、政治家や役人たちが的確に予測することなどできるはずがないのです。

大阪府も、僕の前任知事である太田房江さんが、当時のシャープに対して数百億円の補助金を出して、液晶パネル工場を堺市に誘致したことがあります。そのときは大阪府も大阪の経済界も「大阪湾はパネルベイになる!」と大喜びしました。

ところが国際ビジネス環境は厳しい。パネル産業において、日本、そして大阪府、堺市、ひいてはシャープの国際競争力はあっという間になくなってしまいました。