既得権がイノベーションを阻んでいる

日本政府がライドシェアを認めないのは、タクシー会社やタクシードライバーの利益を守るためです。

車をもっている人がタクシー免許がなくても気軽に空いた時間でタクシー事業ができるようになると、既存のタクシー会社やタクシードライバーにとっては大打撃です。他方、彼らの利益を守ると国民全体の利便性が損なわれます。

このライドシェアの話は、タクシー利用者の利便性向上の話にとどまるものではないことが重要なのです。これは経済主体がイノベーションを起こすことができるかどうかの重要な分岐点になる話なのです。

というのも、ライドシェアから始まったウーバーなどの事業者が、配車サービスを起点に次々と新たな事業を生み出してきているからです。

空車車両とお客をマッチングするだけでなく、飲食店と消費者を出前で結ぶウーバーイーツが生み出され、コロナ禍の日本でも爆発的な成長を遂げました。

さらに海外の配車アプリ事業者は、ネット金融やネット販売などにも事業領域を広げ、スーパーアプリなるものに発展しています。これこそまさにイノベーションによる経済成長です。

世の中で巻き起こる賛否両論の議論は2種類

日本では、そもそもライドシェアが認められていないので、それを起点にしたイノベーションや成長は生じていません。既得権益を守りたいという動きはタクシー業界だけではありません。

たとえば、新型コロナウイルス対応について政府は、「かかりつけ医制度を設けたり医療機関に対する指示権を確立したりする」と言いました。しかし、そうした提案に対して医療界は猛反対しました。

ですから、今政治が優先的にやるべきことは、最近議論が始まったWeb3.0(仮想通貨の経済圏)などのちょっとかっこよさそうな問題ではなく、民間の経済主体によってイノベーションが生まれる環境を整えること。

すなわち既得権益をぶっ壊し、新規参入がどんどん促されて経済主体が切磋琢磨できる環境を整えることなのです。

世の中の賛否両論の議論には2種類あります。1つは、学者たちが集まって賛否両論が巻き起こる場合です。これは専門家による机上の議論ですから、命をかけたものではなく、学術的な議論や抽象的な議論に終始します。

もう1つは、自分たちの生活がかかっている人たちが激しく反対する賛否両論の議論。こちらは参加者が命をかけて議論します。Web3.0の話は前者であり、ライドシェアの話などは後者であり、政治家が力を尽くすべきはもちろん後者です。